中国では人民に対する「反日教育」の一環として、反日映画・ドラマ(中国国内では「抗日片」と呼ぶ)が数多く製作されている。中国の人々の間でも大人気であり、日中関係に多大な影響を与えている。
その実態を探るため、在中国ジャーナリストの西谷格氏が、「反日ドラマ」の製作現場に潜入した。
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現場では業務用の大型ビデオカメラを担いだカメラマン、音声を拾うマイク係や小道具係がいる中、監督は折りたたみのディレクターズチェアに腰掛けながら複数のモニター画面を見て指示を飛ばしていた。
一見、日本の一般的なドラマ撮影の風景とあまり変わらないようだ。役者もスタッフもみな中国人で、どうやら日本人は自分ひとりらしい。
ただ一つ明らかに違うのは、現場は運動会の万国旗さながらに、大量の日の丸と旭日旗が道路真ん中にはためいている点。敵役である日本の国籍を強調したいのだろうが、あまりに異様だ。
日本兵の持つ歩兵銃の先端にも例外なく日の丸の小旗がくくりつけられていた。しかも、日の丸を「悪の象徴を表わす小道具」としか捉えていないため、その扱いは非常に雑。何枚かの日の丸が地面に落ちて土が付着していたが、誰も気にしない。
また、死屍累々の日本兵を表現するため、死体人形が積まれている一角もあった。人形には軍服が着せられ、その上には無造作に日の丸が置かれている。こうした方が、視聴者にとって敵味方を区別しやすいのだろう。
木造家屋セットの中では、日本兵が敵の反撃を食らって死ぬ場面の撮影が行なわれていた。
カメラ映えする派手な倒れ方になるよう何度も撮り直しを行なっており、役者は苦労している様子だった。被弾した日本兵が苦悶の表情を浮かべ、大げさに全身をばたつかせながら倒れ込むと、ようやくオーケーが出た。
後の撮影時に、こうした死に役の日本兵も演じられないかと監督に頼んでみたが、「死に役は動きが難しいから、お前はまだダメだ」と断わられてしまった。
日本人将校役の俳優は、軽く白目を剥いたような半透明のコンタクトレンズを右目に装着し、眉間には旗本退屈男の三日月型の傷跡に似たメイクが施されていた。見るからに不気味で凶悪そうだ。
夕方になると、仕出し弁当が支給された。滞在中の食事はすべてこの弁当で、メニューは日替わりだが米は硬すぎたり柔らかすぎたりと味はイマイチ。ただ、監督だけは立派な容器に入れられた特注の弁当を食べていた。監督はやはり別格なのだろう。
※SAPIO2014年11月号