日本経済新聞は10月5日付朝刊の1面で消費税を「10%」に引き上げることを促す記事を打った。
〈「予定通り再増税」6割消費税で有識者〉の見出しを掲げ、〈政府が昨年夏に8%への消費増税について意見を聞いた有識者の6割が、来年10月に予定する消費税率10%への引き上げに賛成であることが4日分かった〉──と報じた。
なぜこの記事が重要なのか。実は、政府の増税判断には“有識者”が大きな影響力を持つ。
安倍晋三首相は昨年、「8%」への引き上げを決断する前に「集中点検会合」を開いて日本経団連や全国銀行協会、連合などの団体トップや学者、エコノミストなど60人から意見を聞いた。その結果、76%にあたる44人が増税に賛成論を唱えた。
その意見を“国民を代表する各界の論者の声”とアピールして、「8%」を決定した。要するに責任逃れのアリバイ工作だ。
今回の10%への再増税判断にあたっても、安倍政権は再度、彼ら“有識者”から意見聴取する方針を表明している。日経は、意見聴取がまだ開かれていない段階で前回のメンバーにアンケートを行ない、〈「予定通り再増税」6割〉と増税を後押ししたのである。
だが、国民生活がこれ以上の増税に耐えられる状況にないことは経済指標から一目瞭然だ。
厚労省の毎月勤労統計調査(速報)では実質賃金は14か月連続でマイナス。とくに消費増税後は、4月(マイナス3.4%)→5月(同3.8%)→6月(同3.2%)→7月(同1.7%)→8月(同2.6%)と、大きく下がっている。
消費も落ち込み、4~6月期の実質GDPは年率換算マイナス7.1%と景気に急ブレーキがかかった。
安倍首相は円安で輸出を伸ばし、社員の給料を増やして購買力を高め、消費拡大で経済成長させると宣言した。しかし、相変わらず輸出は伸びずに貿易赤字は拡大の一途で、アベノミクスが完全に失敗したことは明らかだ。
それでも日経アンケートに「10%への再増税をすべき」と答えたのはどんな“有識者”たちなのか。
日経の取材に回答したのは、集中点検会合メンバー60人のうち43人。内訳は税率10%への引き上げ「賛成」が26人、「反対」9人、「どちらともいえない」8人、「未回答」17人だ。60人全員を分母にすると賛成は半数以下の43%。日経の見出しの「6割」は回答者だけを分母にしたもので、ややミスリードだ。
※週刊ポスト2014年10月24日号