気温は8℃、静まりかえった広大な田園からは虫の音だけが聞こえ、すみ渡る空気が満点の星々を一層きらめかせる、北国らしい秋の夜だった。
人口わずか8000人、キャベツ畑と白樺林に囲まれた北海道南幌(なんぽろ)町。10月1日の深夜1時、この小さな町の薬局に勤める女性(23才)が残業を終えて帰宅すると、のどかで美しい町の空気を一変させる、おぞましい光景が待っていた。
1階の寝室に母親(享年47)が、2階の寝室に母方の祖母(享年71)が、寝間着姿のまま絶命していた。母親は喉仏から頸動脈まで切り裂かれ、祖母は頭と胸を中心に7か所刺されており、部屋中が血の海と化していた。
そして、返り血を浴びた妹のA子(17才)が、自室で1人たたずんでいた…。A子はこの家の三女で、当初、警察の事情聴取に対し、「寝ていたのでわからない」と話していたが、その後、自身の犯行であることを認めた。
被害者2人の死因は失血性ショック死。強盗目的の犯行に見せかけるため、部屋中のたんすの引き出しを開けており、隠蔽工作も見て取れた。凶器となったのは台所の包丁で、血まみれの軍手や衣類と共に、自宅から5km離れた公園内の小川で、ポリ袋に入った状態で見つかった。
「凶器について、A子は事情聴取で“姉の運転する車で捨てに行った”と証言しています。第一発見者となった姉はこの家の長女で、通報前に妹と共に証拠隠滅行為に加わり、通報後も、妹が犯人であることを警察に告げていなかったのです」(捜査関係者)
それは、この家で地獄の苦しみを味わい続けた妹を守ろうとする、姉としての覚悟だったのかもしれない。一家がこの家で暮らすようになったのは、20年前のこと。当時、札幌市に住んでいた両親が、長女と次女を連れて引っ越してきたのだった。
「その3年後にA子ちゃんが生まれたんですが、当時はとにかく仲良し家族でね。父親は水道工事関係の仕事をする真面目なかたで、よく家族5人で、庭でバーベキューをしていました」(近隣住人)
しかし、A子が生まれた2年後、夫を亡くした祖母がこの家で同居を始めると、そんな生活は一変した。
「おばあさんは、大の子供嫌いだったんです。幼いA子ちゃんが泣いたりすると、“どういうしつけをしてるんだ!”って娘夫婦を怒鳴り散らしていました。一方で自分が連れてきた柴犬だけはかわいがって、“この家の子供は犬以下だよ”なんて嫌みを言うこともあったそうです」(前出・近隣住人)
祖母は、夫の遺産や生命保険に加え、株投資で大儲けした成金で、この一戸建ても彼女のお金で建てたものだった。
「だからなのか、“あたしの家に住むのなら、あたしのいうこと聞くのが当たり前だろ!”って、いつしか一家の主として振る舞い始めたんです」(前出・近隣住人)
また、ほとんどが農家という土地柄で、ブランド物のブラウスにロングスカート、ストールを巻いて闊歩する祖母は周囲からも浮いていた。
「常に化粧ばっちりで、髪の毛一本乱れていない人でした。それに、自分がいかに金持ちかを吹聴するような女性で、誰に対しても上から目線で接するので、避ける人も多かったんです」(別の近隣住人)
父親は、そんな横柄な物言いをする義母に意見することもあったが、「文句があるなら出ていけ!」と、怒鳴られるだけだったという。結局、父と祖母の折り合いは悪いままで、祖母が同居を始めた2年後、父は母と離婚。札幌の実家に帰ってしまった。
「この時、次女は“こんな家じゃ暮らせない”と、父親についていったんですが、長女と三女は母の元に残ることになりました」(前出・別の近隣住人)
※女性セブン2014年10月23・30日号