認知症はもはや超高齢化社会・日本の「新たな国民病」である。65歳の認知症高齢者とその予備軍は合わせて826万人ともいわれる。発覚の端緒になりやすいのが料理、洗濯などの家事だ。実例を見ていこう。
都内で働くA氏(55)の母親(81)は福島県の2LDKの公営アパートで父親(83)と暮らしている。昔から料理が大好きでいつも台所に立っていた母親に突如、異変が生じた。父親は「母さんの様子がおかしい」と慌てて電話してきた。
「野菜を刻む、皮を剥くという作業は昔と変わらず器用にこなすのに、野菜を刻む前に鍋に火を点けて空焚きしたり、下味を忘れるようになったりと料理の段取りがちぐはぐだというんです。3日間同じ献立を作り続けたこともあったようです。
以前は無駄なく使い切っていた食材も余らせるようになって、賞味期限切れの牛乳や豆腐などで冷蔵庫がパンパン。電子レンジの使い方も分からない。病院に連れて行ったところ、中等度のアルツハイマー型との診断でした」(A氏)
認知症になると「同時作業」の能力が衰える。2つ以上の作業を同時にこなしていた人が「段取り」を組めなくなる。都内在住のB氏(55)も家事がきっかけで母親の認知症(中程度のアルツハイマー型)に気づいた。
「千葉県で暮らす母(78)は洗濯が覚束(おぼつか)なくなった。洗濯機が動かないとオロオロしていたら電源が入っていないだけだったり、洗濯中に洗剤と間違って漂白剤を入れて色落ちさせたり。洗濯機から出した洗濯物にいきなりアイロンをかけ、乾かないからと長時間続けてボヤ騒ぎを起こしたこともあります」(B氏)
母親の死後、兵庫県の古い一軒家で1人暮らしする父親(82)の元に半年ぶりに帰省した都内在住のC氏(50)のケースも深刻だった。
「私の名前を間違ったり、年月日をまるで把握していなかったりと電話の様子がおかしかった父を心配して実家に戻りました。リビングは意外と掃除が行き届いていて、一度は安心したんですが……」(C氏)
ところが冷蔵庫を開けたC氏は腰を抜かした。
「中からスリッパと靴が出てきたんです。父に聞いても“あれ、なんでやろ”と要領を得ない。慌てて家中を調べました。押し入れを開けると布団の隙間にパンのかけらが挟んであり、腐敗臭が漂いました」(C氏)
※週刊ポスト2014年10月24日号