【書評】『まだ、都会で 貧乏やってるの?』吉角裕一朗著/学研パブリッシング/1350円+税
【評者】森永卓郎(経済アナリスト)
都会でのチャレンジに敗れた著者は、故郷の熊本に帰って再生バッテリーの販売で起業し、いまでは年収1億円を稼ぐ成功者に上り詰めた。しかも、著者の周りには、著者と同様に、田舎で起業して成功した人がたくさんいるという。本書は、それらの体験をベースにした、「田舎起業のススメ」だ。
著者が田舎での起業を勧める理由は次のとおりだ。どんな分野であれ、ビジネスはトップを取ることが、圧倒的な有利をもたらす。その点、田舎にはライバル企業が少なく、センスも劣っているので、都会のセンスを身につけて田舎に戻れば、容易にトップが取れてしまう。その一方で、インターネットを使った販路が、全国に向かって開かれている。だから、ビジネスの拠点としては、田舎の方が、圧倒的に有利だというのだ。
この本を読んで、真っ先に思い浮かべたのは、九州通販王国のことだった。ジャパネットたかた、再春館製薬所、キューサイ、やずや、トーカ堂。通販の世界ではよく知られた存在だが、全部九州の会社だ。
なぜ、主要な通販会社が九州に集中しているのか。それは、九州の消費市場の大きさが限られているので、全国進出しないと、成長できないという事情があるからだが、それに加えて、家賃や人件費が安いので、全国レベルで十分な競争力を持つことも大きな理由だろう。そうして考えると、「都会でくすぶるより、田舎で起業しよう」という著者の提案には、説得力を感じる。
ただ私は、著者が成功したのは、田舎での起業という条件を満たしただけではなく、次々にビジネスのアイデアを思い付く才能と時流に乗る強運が、著者に備わっていたからだと思う。だから、誰でも田舎で起業すれば、儲かると思ったら、大間違いだ。
もちろん挑戦しなければ、成功はない。だから、田舎での起業というのが、ビジネスを始めたいと思っている人たちにとって、有力な選択肢の一つであることを示したというのが、本書の存在価値なのだと思う。
※週刊ポスト2014年10月24日号