天皇皇后両陛下、皇太子ご一家には「侍医」と呼ばれる医師がついている。両陛下には侍医長と3人の侍医が、皇太子ご一家にも東宮侍医長と3人の東宮侍医がおり、24時間体制で勤務。国内外の公務先にも同行することが多い。
昭和天皇の時代、侍医たちはモーニングに身を包み天皇を診察していたが、今では背広にネクタイが基本だ。この侍医にはある“特徴”がある。『皇太子誕生』(講談社文庫)著者でジャーナリストの奥野修司さんはこう話す。
「明治天皇の頃から、皇室のかたがたの診察をするのは東大の教授と決まっていました。当時の日本では東大の医学部が最高レベルであり、万が一間違ったとしてもそれ以上の診断はできないだろうという考えがあったからです。その考えは今も宮内庁に受け継がれている。宮内庁病院に招かれる医師もほとんど東大出身です」
そうした侍医たちのトップに立ち、天皇の健康を管理する統括責任者といわれるのが「医務主管」だ。医務主管は皇室に関する医務を統括して、両陛下および皇太子ご一家の医療の方針を決めるなど重大な責務を担う。
2002年から2012年まで10年間にわたって医務主管を務めたのは東大医学部卒で元東大病院院長の金澤一郎さんだ。金澤さんの在職時には、前述した通り天皇陛下の2度の大きな手術が行われた。
「陛下はいずれの手術も東大病院で受けられましたが、その判断を下したのも金澤医務主管でしょう。侍医にその決定はできません。出産や手術といった大きな医療行為になると専門の御用掛(非常勤の国家公務員)が選ばれ、どの病院でどんな治療を受けるかということを陛下と医務主管と御用掛の三者で決めます。皇室の医療にかかわる医師は東大出身者と言いましたが、冠動脈バイパス手術を執刀した天野篤さんは順天堂大学の医師で例外です。天野さんの技術を評価した金澤医務主管が英断したといえます」(奥野さん)
皇室を支える医師団にはもうひとつ“例外”がある。元宮内庁職員で皇室ジャーナリストの山下晋司さんが言う。
「適応障害に悩む雅子妃殿下の主治医は慶應大学卒の医師で国立精神・神経医療研究センター認知行動療法センター長の大野裕さんです。妃殿下の担当医になるからには、『東宮侍医』や非常勤の『御用掛』という役職を与えて宮内庁の指揮命令系統に入っていただいたうえで治療に当たってもらうべきですが、そうはなっていません。そのため、妃殿下の病状を皇室医務主管が把握できていないという問題が指摘されています」
実際、2012年7月に金澤医務主管が『文藝春秋』(2012年8月号)で衝撃的な発言をし、世間を驚かせた。
<大野先生に来ていただいたところまでは良かったのですが、少なくとも私が意図した方向で治療システムが構築されたとは残念ながら思ってはおりません。その点に関しては、私は皇室医務主管として残念ながら失格だったと思っています>
※女性セブン2014年10月23・30日号