認知症の高齢者は、予想もしないトラブルに巻き込まれることがある。近所を徘徊中に電車にはねられた認知症患者男性の場合は、遺族らに対し見守りを怠ったと約360万円の支払いが命じられた。
交通事故も怖い。高知大学などの2008年の調査では、認知症患者約7300人のうち、11%が認知症の診断を受けた後も運転をやめず、そのうち約130人(運転者の16%)が人身事故や物損事故を起こしていた。
和歌山県に住むA氏(52)には軽度認知障害の70代後半の父親がいる。父親は「危ないから自重して」という家族の反対を押し切って車を運転し、大きな代償を支払うことになった。
「近所の家の壁に激突して物損事故になってしまった。幸い、相手が知り合いだったので30万円で示談となりましたが、人身事故だってあり得ますから今後が不安です。田舎暮らしなので近所にスーパーもなく車がないと何もできない。父親は“ちょっと不注意だっただけだ”と今でも車に乗ろうとしています」(A氏)
2012年に宮崎県えびの市で下校中の小学2年生の男児3人が車にはねられた事故では、男児の両親が車を運転していた男性(当時76)とその家族に約3億6000万円の損害賠償を求めて提訴した。原告側は男性には認知症の疑いがあり、医師から運転を控えるよう指導されていたとして、家族にも「運転を阻止する義務があった」と主張した。
年老いた両親の運転中の事故により突然、一生かかっても払えない賠償金を請求されることが誰にでも起こり得るのだ。
※週刊ポスト2014年10月24日号