いまや国民の最大関心事といってよい「認知症」。65歳以上の高齢者約3200万人のうち、認知症患者数は約462万人に達するとされる(厚生労働省調べ)。予備軍も合わせると862万人になるという。認知症になると家事が崩壊し、性格が豹変、ご近所や家族とのトラブルに発展しやすくなる。そして、ボケた親が「加害者」となるのは最悪の事態だ。最近、ニュースを騒がせた「徘徊トラブル」は、決して対岸の火事ではない。
2007年に近所を徘徊中に電車にはねられて死亡した認知症患者男性(当時91)の妻(同85)らに対し、一審判決は「見守りを怠った過失」があるとして、約720万円の損害賠償をJR東海などに支払うよう命じた。今年4月の控訴審でも妻の責任は認定され、約360万円の支払いが命じられた。
千葉県に住むA氏(57)は、中等度のアルツハイマー型を患う父親(89)の「あわや」の事態を振り返る。
「ある時、浦安市の実家からいなくなった認知症の父が数日後に、15キロ離れた東京駅付近で発見されました。現金は持っておらず1人で歩いてそこまで行ったようです。報道で高額賠償の件を知っていたので、父が踏み切りなどで事故を起こしていたらと思うとゾッとしました」
この一件を機に認知症について勉強したというA氏が続ける。
「徘徊には“ブラブラ歩き”のイメージがありますが実際には違う。本人には『△△さんが○○で待っている』など妄想であっても確たる理由があって家を出ていくんです。なので足取りは意外にしっかりして、移動するスピードも速い。普段、家の中でやっと歩いているからと油断していると、父のようにとんでもない距離を歩いて発見されるそうです」
今年5月には、行方不明となり、群馬県館林市の施設に保護されていた女性(67)が7年ぶりに夫と再会した。
この女性の生活費は7年間で1000万円以上にのぼるという。館林市は女性や家族に生活費の請求はしない方針だが、今後、全国で同様のケースが起きた場合には家族への生活費請求も考えられる。NHKの調査によれば、徘徊中に行方不明になった認知症の高齢者は2012年で約9600人に達する。
※週刊ポスト2014年10月24日号