120年ぶりの民法改正により、飲み屋のツケの時効の延長が検討されている。飲み屋のママと懇ろになり、支払いが“なあなあ”になるような羨ましいケースをたまに聞くが、別れた後に飲食代を請求された場合、払う必要はあるのだろうか? 弁護士の竹下正己氏が、こうした相談に対し回答する。
【相談】
2年ほど前からクラブのママと、いい仲に。お店での飲み食いもタダで、請求はされませんでした。しかし、別れたとたん、それまでの2年間の飲食代100万円以上を請求されました。まさに寝耳に水で、すぐに払わないと訴えるといわれ困り果てています。この場合、やはり払わなければいけませんか。
【回答】
タダで飲食したというのを
(1)タダでよいと合意があった場合
(2)明確な合意はないが、あなたはタダという約束があったと思っていた場合
(3)そこまでは思わなかったが、請求がなかっただけの場合
に分けて考えます。
(1)の場合は、飲食をタダで提供する贈与契約があったことになりますが、そもそも契約の成立を証明できるかが問題です。ママが「××ちゃんの飲み代はタダよ」と人前で宣言したとしても、酒の上の発言であれば、確実な贈与申し出かは疑問です。もっとも、文書が無くても、店を手伝うなど、周りからみてタダでもおかしくない状態になっていれば、約束の立証は客や従業員の協力を得られれば可能でしょう。
しかし、例えば結婚の約束までしながら違約したという場合には、タダの飲食は夫婦になるという負担付の贈与であって、約束違反だから契約を解除するといわれるかもしれません。
その場合でも、もしあなたが既婚者で、ママが不貞関係の継続のためにタダで飲み食いさせたとすれば、公序良俗に反する不当な目的での贈与になります。解除して代金を請求するのは民法第708条が「不法な原因のために給付をした者は、その給付したものの返還を請求することができない」と定めている不法原因給付に当たり、認められない可能性もあります。
(2)の場合は、(1)か(3)に分類され、あなたの勝手な思い込みであれば(3)と同じです。(3)の場合であなたが反論できる理屈は時効です。民法第174条は、飲食代の時効期間を1年間と定めています。そこで、あなたは1年以上前の飲み代については時効を主張できます。
とはいえ、いい仲になって尽くしてくれたママさんとは、きれいに別れたいところです。何とか都合をつけて、きっぱり清算するのがよいのではありませんか。
※週刊ポスト2014年10月24日号