なぜ実家の老親たちは、子供たちから見れば無駄としか思えない過剰な備蓄を行うのか。その行動と心理に迫った。「お得なもの」に飛びつくがあまり本末転倒に陥りやすいのが老親世代の特徴だ。
熊本県出身のA氏(52)は、帰省中に実家のトイレのドアを開いて呆然と立ち尽くした。棚に未開封のトイレットペーパーロールがタワーのように天井近くまで積み上がっていたからだ。気になって押し入れをのぞくと、こちらはティッシュペーパーの箱であふれていた。
「スーパーのセールやドラッグストアのポイント5倍デーのたびにまとめ買いしていたようです。“死ぬまでに使い切れないぞ”と嫌味をいうと、80歳の母は“もう一回オイルショックがあっても安心ばい”とケロリ。あ然としました」
なぜかハマりやすいのが「100円均一ショップ」だ。特に母親の信奉ぶりはもの凄い。B氏と都内で同居する母親(78)は、近所にある100円均一ショップで毎日1000円以上買い物してしまう。
「“あったほうが便利だから”と、スティックのりやら消しゴムやら電池やらガムテープやら、日用品を何でも買おうとする。スーパーでの買い物はチラシを見比べて、5円、10円安いものを選んだりしているのに、100円均一だと手当たり次第。おかげで家は小物であふれてウンザリです」
手元に「現物」がないことも不安になるようだ。C氏の父親(74)は、何度いっても旅行をする前に、バスに乗って「みどりの窓口」まで切符を買いに行く。
「電話で予約すれば、当日購入・受け取りでいいのに、父は“事前に切符がないと安心できない”というんです。カネと時間の無駄だと思うんですが……」
これらのエピソードに共通するのは「万が一の備え」「いざというときの安心」というキーワードだ。立正大学教授(心理学)の西田公昭氏がいう。
「高齢者は、病気や迫り来る死など、若い人に比べて多くの不安感を抱えて生きている。特に独居の高齢者に多く見られる傾向です。“お金で安心感が買えるのなら”と、周囲からは無駄遣いと思える備えに走ってしまいやすいのです」
※週刊ポスト2014年10月31日号