タオルをかぶせたビーチマットの上で丸まっている柴犬のポム(18才、メス)の体を少し起こすと、松下晴子さんは水の入った容器をポムの口につけ、ゆっくりと傾けた。
「この子は寝たきりで、もう自分で水を飲むことができないんです」
ポムが飲み終えると、その口元を松下さんはタオルでゆっくりとぬぐった。筑波山(茨城県)の裾野にある「ひまわり」。80種約350匹の犬がいるテーマパーク「つくばわんわんランド」を経営する会社が、同ランド内の奥まった場所に今年5月に開いた老犬ホームだ。
約500平方メートルの敷地に立つホームは、平屋建て約200平方メートル。広さ8畳前後の部屋が8つ、東西に並んでいる。全室に南向きの屋根付きテラスがあり、そこからアスファルト舗装をした広場に出られる。
各部屋は床がコンクリートで、部分的にマットが敷いてある。室温はエアコンで管理。朝夕の2回清掃をする。入所する犬の部屋割りは、それぞれの性格や他の犬との相性を見極めながら決める。
松下さんは動物看護師の資格をもつ、ひまわりの専従スタッフ(マネジャー)だ。もう1人の専従スタッフと、わんわんランドからの応援スタッフ数人で、入所している14匹(2014年10月現在)の犬を世話している。すぐ隣には動物病院があり、わんわんランド職員の獣医師が、ひまわりに入所している犬たちの診療にも当たる。
ホームの一日は、午前8時に犬たちがテラスに出ることから始まる。その後、1匹ずつ、わんわんランド内や周辺をスタッフと散歩。帰ってくると食事だ。日中は、耳の掃除やブラッシング、シャンプーなどをしてもらい、午後3時ごろに2回目のごはん。夕方にもう一度散歩をする。夜は、板で仕切られた小部屋に1匹ずつ入って寝る。
老犬なので、こうした日課に体がついていかなくなることもある。そうした場合は、獣医師の診断をもとに、薬をのんだり食事を変えたりする。体調が悪化すると、松下さんたちがすぐ対応できるよう、ふだんの部屋からホーム事務室に移ることもある(冒頭で紹介したポムがいたのも事務室だった)。
このホームの特徴のひとつが、入所犬以外のさまざまな犬や、たくさんの人たちの存在を間近に感じながら過ごすことだ。ホームの隣にはペットの専門学校があり、その学生たちがよく犬を連れて広場を行き来する。そのたび入所犬たちは、彼らの姿を目で追ったり、テラスの柵に前足をかけて身を乗り出したりする。ホームの広場の向こう側はわんわんランドの野外ステージで、営業時間中はスピーカーの音楽が響き、出演する犬たちの声も聞こえてくる。
「決して閑静な環境ではありません。でも、いろんな犬の姿が見え、声が聞こえることが、入所している犬たちのいい刺激になっている面もあると思っています」(つくばわんわんランド松島美夫専務)
※女性セブン2014年11月6日号