国内

昭和天皇の戦後巡幸 国民の熱狂的な歓迎ぶりを専門家が解説

 皇太子時代を含め、戦前は北海道や沖縄、台湾・南樺太まで行啓・行幸した昭和天皇。しかし、戦後の全国巡幸はそれまでと全く違う意味を持っていた。

 国家元首の比較研究を手がける西川秀和氏(大阪大学非常勤講師)が、9月に公表された『昭和天皇実録』ではうかがい知れない当時の巡幸の様子を解説する。

 * * *
 終戦から半年後の1946年2月19日、3台の御列が静かに皇居を後にした。向かった先は神奈川県川崎市の昭和電工川崎工場。御料車から降りられたのは、背広にソフト帽という庶民的な装いの昭和天皇だった。この日、足かけ8年半に及ぶ全国巡幸が始まった。

 国土が荒廃し、食糧不足で闇市が横行するなど、戦争の傷跡が生々しく残る中、関東巡幸を皮切りに同年10月に東海巡幸を行ない、翌1947年6月からは近畿巡幸へ。

 その後は涼しくなる秋口までご静養される予定だったが、自らの強いご希望で8月から年末にかけ東北、甲信越・北陸、中国地方を立て続けに巡幸された。

 巡幸開始前、昭和天皇と側近は国民に石もて迎えられないかと危惧したが、国民は熱狂的に歓迎した。

 御姿を一目見んと各地に押し寄せ、大阪や福島ではMPの空砲がようやく民を鎮めた。原爆投下後、初のご訪問となる広島市には5万人の市民が集った。

 中国巡幸では、連合国総司令部(GHQ)が厳禁していた日の丸を群衆が掲げる「日の丸事件」が生じ、激怒したGHQ幹部が巡幸中止を申し入れた。

 占領統治を円滑に進めるべく巡幸を許可したGHQだったが、国民のあまりの熱狂ぶりに日本が戦前の皇国体制に戻ることを恐れたのだ。

 当時は極東軍事裁判の最中で昭和天皇の御退位問題なども浮上しており、巡幸は一時中断された。が、冷戦の進展でGHQの占領政策が「逆コース」へと転換したことや、昭和天皇御自身が再開を熱望されたこともあり、1949年、予定より遅れて九州巡幸が行なわれた。

「日の丸」も許され、翌1950年に四国巡幸、1954年には北海道巡幸が行なわれた。愛媛県の道後温泉では斉明天皇以来1300年ぶりに昭和天皇が御入浴され、北海道・旭川には15万人の道民が集まった。

※SAPIO2014年11月号

関連記事

トピックス

歌舞伎俳優の中村芝翫と嫁の三田寛子(右写真/産経新聞社)
《中村芝翫が約900日ぶりに自宅に戻る》三田寛子、“夫の愛人”とのバトルに勝利 芝翫は“未練たらたら”でも松竹の激怒が決定打に
女性セブン
胴回りにコルセットを巻いて病院に到着した豊川悦司(2024年11月中旬)
《鎮痛剤も効かないほど…》豊川悦司、腰痛悪化で極秘手術 現在は家族のもとでリハビリ生活「愛娘との時間を充実させたい」父親としての思いも
女性セブン
ストリップ界において老舗
【天満ストリップ摘発】「踊り子のことを大事にしてくれた」劇場で踊っていたストリッパーが語る評判 常連客は「大阪万博前のイジメじゃないか」
NEWSポストセブン
紅白初出場のNumber_i
Number_iが紅白出場「去年は見る側だったので」記者会見で見せた笑顔 “経験者”として現場を盛り上げる
女性セブン
弔問を終え、三笠宮邸をあとにされる美智子さま(2024年11月)
《上皇さまと約束の地へ》美智子さま、寝たきり危機から奇跡の再起 胸中にあるのは38年前に成し遂げられなかった「韓国訪問」へのお気持ちか
女性セブン
野外で下着や胸を露出させる動画を投稿している女性(Xより)
《おっpいを出しちゃう女子大生現る》女性インフルエンサーの相次ぐ下着などの露出投稿、意外と難しい“公然わいせつ”の落とし穴
NEWSポストセブン
田村瑠奈被告。父・修被告が洗面所で目の当たりにしたものとは
《東リベを何度も見て大泣き》田村瑠奈被告が「一番好きだったアニメキャラ」を父・田村修被告がいきなり説明、その意図は【ススキノ事件公判】
NEWSポストセブン
結婚を発表した高畑充希 と岡田将生
岡田将生&高畑充希の“猛烈スピード婚”の裏側 松坂桃李&戸田恵梨香を見て結婚願望が強くなった岡田「相手は仕事を理解してくれる同業者がいい」
女性セブン
電撃退団が大きな話題を呼んだ畠山氏。再びSNSで大きな話題に(時事通信社)
《大量の本人グッズをメルカリ出品疑惑》ヤクルト電撃退団の畠山和洋氏に「真相」を直撃「出てますよね、僕じゃないです」なかには中村悠平や内川聖一のサイン入りバットも…
NEWSポストセブン
注目集まる愛子さま着用のブローチ(時事通信フォト)
《愛子さま着用のブローチが完売》ミキモトのジュエリーに宿る「上皇后さまから受け継いだ伝統」
週刊ポスト
イギリス人女性はめげずにキャンペーンを続けている(SNSより)
《100人以上の大学生と寝た》「タダで行為できます」過激投稿のイギリス人女性(25)、今度はフィジーに入国するも強制送還へ 同国・副首相が声明を出す事態に発展
NEWSポストセブン
連日大盛況の九州場所。土俵周りで花を添える観客にも注目が(写真・JMPA)
九州場所「溜席の着物美人」とともに15日間皆勤の「ワンピース女性」 本人が明かす力士の浴衣地で洋服をつくる理由「同じものは一場所で二度着ることはない」
NEWSポストセブン