グニャリと歪んだ屋根や思いもよらない方向に曲がった壁──。絵本に登場する「魔女の館」のようなこの建物は、今年7月、静岡県浜松市に完成した賃貸アパートで、今ではちょっとした観光スポットになりつつある。
「50代のオーナーはハロウィングッズの蒐集家で、その希望を形にしたらこうなりました。建物というのは、住む人も観る人も楽しめて幸せになるものが望ましいと思っています」
笑顔でこう語るのは、設計を手がけた『ぬくもり工房』社長で建築家の佐々木茂良氏(56)。その言葉通り、佐々木氏はこれまでもキノコの形をしたレストランや、中世のヨーロッパから移築してきたような不思議な物件を多く手がけてきた。
「お客様のオーダーは細かいところまでとことん付き合います。建物を曲線で構成することを追求すれば、ファンタジーの世界を現実にすることもできるんです」(佐々木氏)
オーダーは、仕事や子育てから解放され、時間やお金に余裕ができる50~60代からが多い。
「50歳以上のお客様は細部までこだわる傾向が特に強い。先日も60代男性からの発注で、外壁が丸くてピンク色の離れを作りました。施工前の打ち合わせで、口に出しにくいような希望までしっかりと聞き出すのも腕のうちだと思っています」(佐々木氏)
画一化されていない夢のような空間で過ごす毎日は、さぞ至福であろう。
※週刊ポスト2014年11月7日号