日本人のふたりにひとりはがんになり、1981年以降、死因ナンバー1に居座りつづけるがん。さまざまな治療情報が話題になる中、がんになっても自覚症状がない限り、原則「放っておいたほうがいい」と言うのが、元慶応大学病院放射線科の医師、近藤誠氏だ。
1990年代に著書『患者よ、がんと闘うな』(文藝春秋刊)で医療界に大論争を巻き起こし、その決着はいまだつかぬまま。近年は『医者に殺されない47の心得』(アスコム刊)が100万部を超えるベストセラーになった。今、日本で最も知名度の高い医師だ。
その常識を覆す言論が敬遠されてか、テレビ出演はほとんどなかった近藤氏だが、10月3日の『中居正広の金曜日のスマたちへ』(TBS系)に登場。番組は「異端の医師・近藤誠は預言者か?扇動者か?がんは放置、手術しない!に医療界が猛反発」と、センセーショナルなタイトルをつけた。
番組終了後、予想通り、週刊誌やネットに賛否両論が噴出した。一般視聴者からは、常識を覆す画期的な理論だ、がん治療の怖さを知ったという声もあったが、医療界からは、「がん放置ではなく患者放置ではないか」、「公共メディアが近藤氏を英雄的に扱うなどとんでもないことだ」などの批判も出た。
賛否両論を巻き起こす元となっているのが、近藤氏の持論「がんもどき理論」である。近藤氏によると、がんには2種類ある。ひとつは他臓器への転移能力を持っている「本物のがん」、もうひとつは転移能力を持っていない「がんもどき」である。
近年、iPS細胞(人工多能性幹細胞)の開発にともない「幹細胞」という言葉がよく聞かれるようになったが、本物のがんと「がんもどき」の決定的違いも幹細胞にある。近藤氏が解説する。
「すべての細胞は幹細胞から複製され、がん細胞の元も、がん幹細胞です。がん幹細胞に転移能力があれば、本物のがんになります。
固形がんは発見される時点で、すでに直径1センチほどになっていますが、それは約10億個のがん細胞の固まりです。その大きさになるまでには何年もかかります。本物のがんは直径0.1ミリほどの時点でも転移を始めるので、発見されるよりずっと前に、すでに他臓器に転移しています。そのため、発見されたがんを手術や抗がん剤で治療しても、転移は防げない。
一方、転移能力を持たないがん幹細胞から生まれたがんは、それ自体が大きくなることはあっても、他臓器へ転移しない。1センチになっても10センチになっても転移しないから、痛みなどの自覚症状が出てきたら治療すればいいのです」