9月9日に宮内庁が発表した昭和天皇の生涯を記録した『昭和天皇実録』では、天皇在世中の出来事が淡々と記録されている。
それでも、88年近い生涯には喜怒哀楽を示された場面も少なくない。『実録』に垣間見られる「涙」と「怒り」の深層を、「モラロジー研究所」教授で京都産業大学名誉教授の所功氏が読み解く。
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この度、公開された『昭和天皇実録』(全六十一巻)は、これまで解明されてきた昭和天皇像を確認すると共に、幼少期から20歳で摂政に就任されるまでの成長過程を新史料により活き活きと描いている。
そうした人間らしさが端的に窺われるのは、「涙を流した」と記される場面である。
敗戦後間もない昭和20(1945)年11月30日、最後の陸軍大臣・下村定から、占領軍の命令に従い日本の軍隊を解散のやむなきに至った説明を受け、
<天皇は落涙され、陸軍の歴史につき御感懐を述べられる>
と実録に記されている。
昨今の報道では、昭和天皇が平和愛好者で戦争に反対されていたことのみ強調する。
しかし、大正3年から7年間、特設の「東宮御学問所」で陸海軍の歴史や第一次世界大戦の実情をしっかり学んでおられる。
近現代の国際社会においては、国家の独立を確保して国民の平和を維持するために、陸海の軍隊が不可欠なことを十分承知しておられた。
従って、その軍隊がなくなるということは、独立国家として自主自立の道を歩めなくなる危機が迫ったと実感して<落涙され>たのであろう。
※SAPIO2014年11月号