マンションのベランダでタバコを吸う「ホタル族」という単語もすっかり一般的となったが、最近ではホタル族の肩身もどんどん狭くなっている。マンションのベランダでの喫煙に対して中止の勧告書が出された場合、従わなければいけないのか? 弁護士の竹下正己氏が、こうした相談に対し回答する。
【相談】
マンションのベランダで煙草を吸っています。しかし、管理会社から喫煙を止めるようにという勧告書が届きました。隣の住人から煙が流れ込んで困るといったクレームがあったようなのです。ただ、吸うといっても2、3本ですし、受忍範囲だと思うのですが、それでも勧告書に従わなければいけませんか。
【回答】
マンションの賃貸借契約に禁煙の約束がなくても、喫煙が周囲の住民の健康を害したり、居住生活に支障をきたせば、不法行為になります。実際には、健康被害との因果関係の立証は困難です。とはいえ、煙草の煙により、周囲の人が受ける健康被害は軽視できないことは知られた事実です。そして、受動喫煙による明確な健康被害が認められなくても、次のような不法行為が認められた事例があります。
マンションの専用ベランダで、夜景を見ながら5、6本の煙草を吸っていた男性の煙草の煙が階上の居室に流れ込み、小児喘息の経験から強い不安を感じた女性が、再三ベランダ喫煙を止めるように求め、管理組合に申し出て禁煙の勧告までしてもらったが、喫煙を止めないので裁判に訴えました。
裁判所は、受動喫煙が健康に悪影響を及ぼすことや嫌煙家が多いことを公知の事実とした上で、他の居住者に著しい不利益を与えていることを知りながら、喫煙を継続し、何らこれを防止する措置をとらなかったことにより、喫煙が不法行為を構成することがあるとして、強いストレスを感じた女性の精神的損害を認め、少額の慰謝料支払いを命じました。
ご質問の場合も、現に隣の住民に迷惑をかけているだけでなく、管理会社からベランダでの喫煙中止の勧告を受けました。それでも喫煙を継続すると、隣の住人から不法行為として訴えられるかもしれません。また、賃貸借契約にマンション内の平穏な居住環境に支障をきたすことなどが解除事由になっていると、契約解除を申し付けられる可能性もあります。
自宅での喫煙を止められないなら、室内で喫煙するしかありません。ただし、強い匂いが残るでしょうから、引っ越すときには、費用をかけてクリーニングすることを求められるでしょう。
【弁護士プロフィール】
◆竹下正己(たけした・まさみ):1946年、大阪生まれ。東京大学法学部卒業。1971年、弁護士登録。
※週刊ポスト2014年11月7日号