10月末、京都市内の焼肉店が生食が禁止されている牛のレバー、いわゆる「生レバー」を客に提供したとして、食品衛生法違反の疑いで逮捕されていたことが明らかになった。店は客に「裏メニュー」として提供していたという。食文化に詳しい編集・ライターの松浦達也氏が考える。
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こうしたニュースを聞くたびにがっかりする。Twitterで「こんなんで逮捕とか終わってる」と堀江貴文氏が漏らし、美容外科医の高須克弥氏が「保健所の指導レベルの話では?」と評した生レバー提供事件の話だ。
念のため、飲食店における生レバーの扱いについて整理しておくと、2011年に富山県で「焼肉酒家えびす」で起きた食中毒事件を受けて、厚生労働省が2012年7月から生食用の提供・販売を罰則つきで禁止。そして2013年10月、京都府八幡市の焼肉店経営者らが客に牛の生レバーを提供したとして食品衛生法違反容疑で逮捕された。今回の事件は「生レバー事件」としては全国2例目となる。
だが昨年と今年のケースでは多少事情が異なる。昨年のケースでは生レバーの提供を受けた客が健康被害を訴えたことがきっかけだった。今回は「情報提供を受けて」府警が内偵を進めていたという。だがどちらのケースも救いがない。飲食店と客が正しい関係を築くことができていないのに、法律という一線を超えてしまったからだ。
この店がオープンしたのは2013年10月。報道では開店当初から生食用の肉を提供していたとされている。動機は「客に喜んでほしかった」から。だが店側の判断で警察や保健所の関係者だと思しき客には「裏メニュー」を提示しなかったという。つまり不当に客を選別してしまった。食べものの恨みは恐ろしい。
今回摘発された店舗がオープンしたのは1年前の2013年10月。現在、国内では生食用の食肉(牛肉)を提供するには2011年に施行された加工基準・調理基準を満たす必要がある。「83℃以上の温湯で洗浄及び消毒が可能な設備」や専用の作業台を設けることが義務づけられている。スペースなどを考えると、一般的な飲食店の厨房設備で提供するのは困難だ。
だからこそ最近復活しつつあるユッケはパック詰めのものがほとんどで、まれに皿に盛られて提供される店は、素材、設備、人材に投資をしてでも、ユッケや牛刺しを出そうという店舗なのだ。だが上記基準を満たしたとしても、「食中毒のリスクを排除できない」という理由でレバ刺しの提供は禁じられている。
にもかかわらず、この店はハナからルールを無視して、リスクの高い方法で客の獲得を目指してしまった。新店なのだから、そもそも店と客の間の信頼関係などそれほどなかったろう。「裏メニュー」を提示されない客の不満はつのる。本当の常連客が相手でもヘタに優遇すると、一見客がレビューサイトで文句を言う時代だ。昨年の摘発第一例目にしても、生レバーを好んで注文したはずの客が健康被害を訴えて提供が露見した。