東京・五反田。午後9時を過ぎた頃、勤めを終えたサラリーマンや若者で溢れるファストフード店「モスバーガー」の店内の光景はちょっと変わっている。接客係も厨房係も、ファストフード店にしては年齢層が高い。初老の従業員たちが緑色の制服に身を包み、忙しそうに働いているのである。
「いらっしゃいませ。ご注文は何になさいますか」
孫のような年齢の客に物腰柔らかな口調で応対する。モスバーガー五反田東口店では、在籍するアルバイトの2割、約10人が60歳以上だ。彼らは、親しみを込めて「モスジーバー」と呼ばれる。比較的時間の余裕があるため、早朝・深夜にシフトを組むケースが多いという。
食品メーカーで働いていた中村和夫さん(62)もその1人だ。在職中からモスバーガーでダブルワークを始め、現在は週5回、午後11時から翌朝5時まで、接客や閉店後の店舗、調理機材の清掃点検などを任されている。
「3階まで商品を階段で運ぶので運動にもなります(笑い)。私たちが裏方としてメンテナンスすることで、お店の営業の支えになっているという存在感を持てることが、やりがいになっています」(中村さん)
時給は公表していないが、深夜割り増しを含めて月収は約20万円だという。客の反応は上々だ。同店をよく利用する30代のOLはこう語る。
「おじいちゃんやおばあちゃんの笑顔は、マニュアルにはない温かみが感じられて和みます。自分の親くらいの人が明るく頑張って働いている姿を見ると、なんだか励まされているように感じる。若い私も頑張らなきゃと思えるんです」
日本の65歳以上の人口は、昨年9月時点で3186万人。総人口の25%を占め、今や4人に1人が65歳以上という時代になった。だが彼らは、一昔前の“年寄り”とは違う。介護なしで元気に生活できる「平均健康寿命」は男性70.42歳、女性73.62歳と伸びており、「体も元気でまだまだ働きたい」という気持ちを持つ人が多い。中村さんのように、最近は定年後の生きがいや経済的理由から、生涯現役を希望する高齢者が増加している。