9月9日、宮内庁は昭和天皇の生涯を記録した『昭和天皇実録』(以下、『実録』を公表した。全61冊、1万2000ページに及ぶこの『実録』は、複雑に絡み合った「昭和」という近現代をひもとくうえで、極めて重要な資産になるだろう。
『実録』を読んでいると、昭和天皇が映画鑑賞される場面が多数登場する。戦争映画の名作から、ニュース映画、漫画映画(アニメ)までジャンルは幅広いが、ご覧になっていた映画から、その時代が読み解ける。
昭和天皇は、その生涯で膨大な数の映画をご覧になった。『実録』の中からその一部を紹介するが、様々なジャンルを鑑賞されていたことがわかる。映画評論家の福田千秋さんは、こう語る。
「ご覧になっている映画から、当時の世相が偲ばれます。『将軍と参謀と兵』『ハワイ・マレー沖海戦』など、戦争に関する映画、ニュース映画が多い。情報収集など政治的意味合いがあったのでしょう。
同時に、『ミッキーの捕鯨船』というディズニー短編アニメもご覧になっている。当時としてはスムースな動きやカラーの美しさを楽しまれたのでは」
終戦直前の『最後の帰郷』は、特攻隊に志願する兵士の物語で激しい戦闘シーンもあるが、「ギリギリの戦況のなか、陛下がどんな思いでご覧になったのか、考えさせられる」と福田さん。実録には《侍従小出英経の説明をお聞きになる》とあるが、感想などは書き記されていない。
一方、陛下は家族団らんの場でアニメを含む作品を鑑賞されており、時に側近とも一緒にご鑑賞になった。戦後は、娯楽作品やヒット作も大いに楽しまれた昭和天皇。前出・福田さんは言う。
「戦前の『別れの曲』や、戦後の『サウンド・オブ・ミュージック』『ウィーンの森の物語』など、音楽関係の映画もよくご覧になっている。リストの作品を拝見すると、かなり映画がお好きだったと見受けられます」
※SAPIO2014年11月号