9月に野村総研が発表した予測によると、2023年に日本の空き家率は21.0%に到達。国や自治体による有効対策の策定が急務となっている。放置された家にできたスズメバチの巣を駆除したい場合、どうすればよいか? 弁護士の竹下正己氏が、こうした相談に対し回答する。
【相談】
近所に空き家があります。その家の庭にスズメバチが巣を作ったらしく、何匹か見かけました。放置しておくと子供が刺される危険性があるので、巣の処分をしたいのですが、家の持ち主は敷地内に入ることを拒否しています。この場合、持ち主の意向を無視して駆除のため立ち入ることはできないのでしょうか。
【回答】
刑法第130条により「正当な理由がないのに、人の住居若しくは人の看守する邸宅、建造物」に侵入すると、住居侵入罪として処罰されます。門も開けっ放しであれば、立ち入っても罪になりませんが、鍵がかかっていれば鍵を保管している「人の看守」があるので、同意なく立ち入れません。
むろん「正当な理由」があれば犯罪になりませんが、正当な理由は立ち入りが社会的に相当かどうかで判断されます。目的が違法でなくても、看守者の意思に反した立ち入りは違法になります。立ち入りを拒否されると、「正当な理由」が認められる場合でも、かなり制約されます。
しかし、刑法第37条では「自己又は他人の生命、身体、自由又は財産に対する現在の危難を避けるため、やむを得ずにした行為は、これによって生じた害が避けようとした害の程度を超えなかった場合に限り、罰しない」と定めています(緊急避難)。この要件を満たせば違法性がなく、犯罪は成立しないことになります。
まず生命・身体・財産の現在の危難として、スズメバチによる刺傷の危険が切迫していることが要件です。スズメバチが飛んでいる場所が通学路だと危険はあります。次に、立ち入る行為が刺傷事故回避のためにやむを得ない行為であることも要件です。回り道がなく、立ち入って巣を駆除しないと事故防止ができない場合です。こうした条件があれば、子供の刺傷事故の重大性に鑑み、緊急避難として立ち入りに正当な理由が認められます。
スズメバチは、攻撃性が強いことから、駆除を行なっている自治体もあります。役所のほか、住居侵入の非難を受ける恐れもあるので、警察にも刺傷事故の危険性を説明し、相談した上で対処すべきでしょう。子供に差し迫った危険があれば、役所や警察が対処すると思います。
【弁護士プロフィール】
◆竹下正己(たけした・まさみ):1946年、大阪生まれ。東京大学法学部卒業。1971年、弁護士登録。
※週刊ポスト2014年11月14日号