遅々として進まない拉致交渉。一体何が問題の本質にあるのか。そして、日本は北朝鮮という国家をどのように解釈すればいいのか。作家の落合信彦氏は、こう警告する。
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何度騙されれば気が済むのか。北朝鮮との拉致交渉において、北朝鮮側が「調査結果は報告できないが、北朝鮮に来れば教えてやる」と言い出したことを受けて、政府は北に調査団を派遣するという。そもそも北は最初から調査する気など全くなかった。長くあの国を取材してきた私からすれば、怒りを通り越して呆れるほかない。
北朝鮮という国には、信義という言葉はない。あるのは、その場しのぎのウソだけだ。
「今度こそ調査をやる」と騙り、調査期間を引き延ばすだけ引き延ばし、その間にできるだけ日本からカネを引き出す。北の狙いはそれしかない。事実、国連次席大使をはじめとする北朝鮮の国連代表部は10月7日、ニューヨークの国連本部で記者会見を開き、「拉致問題は完全に解決済みだ」とした上で、拉致の調査と制裁解除に関する日朝間の合意について、「日本は義務を果たすべきだ」と堂々と言ってのけた。
このことは日本ではほとんど報じられていない。日本人は北朝鮮に不毛な期待をするあまり、現実から目を背けているのである。
そもそも北朝鮮という国は、その出自からしてウソまみれである。この国は、若い頃から満州で抗日パルチザンを組織していた金日成が、日本軍を打ち破って1945年8月に凱旋帰国したという神話の上に成り立っている。しかし、実際にはこの頃、金日成はソ連のハバロフスクでソ連軍の偵察旅団大尉として働いており、しかも名前は金聖柱という本名を名乗っていた。
実は金日成という人物は当時別にいて、確かに満州で日本軍相手に戦っていたのだが、終戦時には36歳で日本軍に殺されていた。彼はその頃、朝鮮において伝説的な英雄だった。そこでソ連のスターリンは、彼の名声を利用するために、金聖柱大尉を金日成になり替わらせたのである。
これが北朝鮮建国神話の真相だ。ウソで塗り固められた土台に立つこの国はその後、金正日、金正恩と代替わりしても、建国以来のウソつき体質は全く変わっていない。その上、指導者の質は代ごとに劣化しているのだから、始末が悪い。「唐様で貸し家と書く三代目」、三代目が家業を潰すという意味だが、金正恩にはうってつけの言葉だ。
2代目の金正日は知性を感じさせない男だったが、3代目は輪をかけてひどい。太りすぎで脚を痛めたとかで最近まで動向が不明だったが、私は暗殺された可能性も疑っていた。粛清した張成沢を慕うグループを中心に、彼に恨みを持つ人間など山ほどいるからだ。
その後、脚を引きずる写真が公開されたが、果たして本人かどうかは定かではない。影武者である可能性もあるからだ。これは錯覚かもしれないが、顔が本物よりきりっとしていた。金正日も、数人の影武者を抱えていた。
ただし、金正恩の場合、影武者を作ることは容易ではあるまい。あれほどの「金満太り」をした人間など、相当のコストをかけなければ養成できまい。
※SAPIO2014年12月号