安倍晋三政権は11月の解散総選挙を考え始めたのではないか。それを強く感じさせたのは10月22日の菅義偉官房長官の会見だった。
長官は消費税を引き上げるかどうか、国内総生産(GDP)の「7~9月期の速報値を見て判断する」と言った。これまでは「改定値を見て判断する」という言い方だった。改定値も2次速報値と言えなくはないが、速報値と改定値では発表時期が異なる。
私が8月下旬に菅長官にインタビューした際は「12月8日の改定値を見て」と日付を含めて明言した。9月20日のテレビ番組でも同様である。同月22日の会見では確認を求める記者の質問に対して「(改定値を見てというのは)常識じゃないでしょうか」とまで述べていた。
ところが、今回の会見では「速報値で判断する」と一変した。1次速報値が出るのは11月17日である。ということは、臨時国会が開かれている最中だ(会期末は同月30日)。私は再増税の凍結・延期はもはや避けられないのではないかとみる。
女性閣僚辞任を受けて実施された読売新聞の世論調査(10月24~25日)では、内閣支持率が一挙に9ポイントも下落した。そこへ消費税再引き上げを決めれば、さらに10ポイント下がってもおかしくない。そうなれば支持率は「危険水域」に近づく。
それで再増税を決められるかといえば、とても無理だろう。では、なぜ菅長官は判断時期を早めたのか。ずばり解散総選挙を視野に入れたからではないか。衆院解散は国会会期中が原則になっているから、12月8日の改定値を待っていては国会が幕を閉じてチャンスを失ってしまう。だから速報値なのだ。
増税の凍結延期は、守勢に立たされている安倍政権にとって形勢回のための武器になる。多くの人々は「増税は既定路線」だと思っているから、景気に前向きのサプライズ効果もあるはずだ。この機を逃すと、原発再稼働や集団的自衛権の法制化など重たい課題ばかりが先に控える事情もある。
いまにして思えば、増税判断をめぐる有識者ヒアリングについて「速報値を待つことなく早めに意見をうかがう」と語ったのは安倍首相本人だった。これも速報値で判断し、解散のフリーハンドを握る思惑からではないか。
■文/長谷川幸洋(はせがわ・ゆきひろ):東京新聞・中日新聞論説副主幹。1953年生まれ。ジョンズ・ホプキンス大学大学院卒。規制改革会議委員。近著に『2020年 新聞は生き残れるか』(講談社)
※週刊ポスト2014年11月14日号