「中国は中日関係の発展に努力し、中国共産党、中国政府、中央軍事委員会は中日関係の長期的で、安定的で、健全な発展を望んでいる」
これは中国・習近平国家主席が9月3日、北京の人民大会堂で行われた記念座談会で語った「重要講話」の一部だ。昨年12月の安倍晋三首相の靖国神社参拝後、習氏が公式の場で日中関係改善に意欲的な発言を行うのは初めて。北京の外交筋は「習主席が米国の対中囲い込み政策に悩まされていることの裏返しだ」と指摘する。
ここにきて、米政権との不協和音が目立ち、周辺諸国から総スカンを食い、成果を誇ろうとしても、逆に中国が国際的に孤立しつつある。「そこで、浮上したのが対日関係の改善策であり、アジアで米国に最も親密な日本をより中国になびかせようという戦略」(同筋)である。
手始めに、習氏は7月に福田康夫・元首相と極秘会談を行い、安倍晋三首相との日中首脳会談に意欲的な姿勢を示した。その後、冒頭の重要講話に続き、少年時代から中南海で親しかった幼馴染みの李小林・中国人民対外友好協会会長を「日中文化交流」の名目で10月、日本に派遣した。
習氏の目算通り、安倍首相は李氏と接触し、首脳会談に積極的な姿勢を示したことで、親中派の高村正彦自民党副総裁をして「(首脳会談の)機は熟した」と語らせた。
問題は沖縄県尖閣諸島問題と靖国神社参拝問題をどう処理するかだ。指導部内に保守強硬派が多いだけに、習氏はこの2点では絶対に妥協できない。これは安倍首相も同じだ。「そこで浮上してきたのが、首脳会談で、この2点には触れないという妥協案だ」と同筋は明かす。
APECという場であり、経済問題を中心に話し合い、首脳会談を行ったという実績作りだけに留めるというものだ。尖閣問題を協議しないことで、軍事的にも、米国を刺激することを避けることができるとのメリットがある。
いわば、「日米離間策」にも通じるだけに、首脳会談が実現するかどうかは「日中双方が国内の環境作りをどこまでできるかにかかっている」(同筋)といえそうだ。
文■ウィリー・ラム
(翻訳・構成:相馬勝)
※SAPIO2014年12月号