世界中で嗜好品として親しまれるコーヒーについては各国で疫学調査が行なわれ、様々な結果が発表されてきた。国内の患者数が700万人、予備群も含めると2000万人以上いるとされる糖尿病は中高年の多くにとって気になる病気である。運動や食習慣、遺伝などの因子がよく知られるが、実は「コーヒーをよく飲む人は糖尿病になりにくい」という研究結果が国内外にある。
2002年にオランダのロブ・M・ヴァンダム氏(国立シンガポール大学医学部准教授)が医学誌『ランセット』に発表した論文では、約1万7000人のオランダ人男女を平均約7年間追跡している。その結果、「コーヒーを1日7杯以上飲む人の糖尿病(2型)発症リスクは、2杯までしか飲まない人に比べて半分程度」とする結果が出たのだ。
日本でも、国立がん研究センターがん予防・検診研究センターの「多目的コホート研究」で同様の調査が行なわれている。40~69歳の日本人約5万6000人(男性約2万5000人、女性約3万1000人)を対象に10年間追跡調査を行なったもので、その成果が2009年に学術誌に発表された。
その結果、「1日にコーヒーを5杯以上飲む人」は「ほとんど飲まない人」に比べて糖尿病の発症率が男性で約2割、女性では約6割も少ないことが明らかになった(なお、いずれの研究でもコーヒーに砂糖を入れるかどうかは調査の前提になっていない)。この「多目的コホート研究」ではコーヒーをよく飲む人は「肝がん」の発症リスクが低いことも指摘されている。
約9万人の男女を8~11年追跡した調査の結果、コーヒーをほとんど飲まない人に比べ、ほぼ毎日飲む人では肝がんの発生率が約半分になり、1日5杯以上飲む人では約4分の1にまで減っていることがわかった(2005年発表)。
がん関連では口腔・咽頭がんのデータもある。管理栄養士の安中千絵氏の解説。
「2013年にアメリカがん協会が行なった約97万人を対象にした大規模な追跡調査があります。追跡期間中に口腔・咽頭がんで死亡したのは868人でしたが、コーヒーを多く飲んでいた人ほど口腔・咽頭がんによる死亡率が低かった。1日4杯以上コーヒーを飲む人は、飲まない人に比べて40%ほど死亡率が低くなっていました」
※週刊ポスト2014年11月14日号