グローバル経済の台頭に違和感を覚え、公共の利益を追求する市民の力が弱まっていると分析しているのが、ベストセラー『がんばらない』著者で諏訪中央病院名誉院長の鎌田實氏。鎌田氏がアメリカのオバマケアの弊害と、それが日本に与える影響について解説する。
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アメリカがどれほど病んでいるかは、11月中旬発売予定の堤未果『沈みゆく大国アメリカ』(集英社新書)にも詳しく記されている。
日本と違って医療保険に入っていない人が5000万人いるアメリカは、全国民の保険を義務化した“オバマケア”を推し進めたことによって、保険会社がべらぼうな利益を上げるに至った。
薬の価格を自由に変えられるアメリカでは、製薬会社が保険を利用して薬代を釣り上げられる。保険&製薬会社は、莫大な献金を民主・共和両政党に送り、どちらに転んでも自分たちがかるようなシステムを作り上げた。“オバマケア”を立案、実践した官邸のスタッフの中にも保険のプロが密かに入り込んでいた。そういう輩は目的を達成すると、保険会社に戻って特別なポジションを与えられ、法外な給料が与えられる。
あるC型肝炎の患者は、医師から新薬をすすめられた。保険に入っているにもかかわらず、自己負担額は、3か月で840万円だったという。日本では考えられない数字だ。
また“オバマケア”が作られたことによって医師たちが保険会社にコントロールされ、保険会社のための書類を作成することに忙殺される。患者のために的確な治療をしても、保険会社から保険が下りず、患者からは責められっぱなし。精神的に追い詰められた医師たちが多く自殺しているという。
そして、アメリカで行なわれた悪行は日本にも迫りつつある。日本の宝ともいえる国民皆保険制度を崩壊させようと、米の民間保険会社が虎視眈眈と狙っているのだ。“自由競争”という錦の御旗の下、TPP妥結の際に日本の医療崩壊も、その序章が始まる。医療や介護もグローバル化させ、一部の人間だけが莫大な富を得るシステムに移行させようと企んでいるのだ。
安倍首相は“非営利ホールディングカンパニー型法人制度”(仮称)の創設を考えているようである。これが出来れば、ひとつの資本で病院や特別養護老人ホーム、障がい者施設など全部をコントロールできるようになる。
だが、日本の医療や介護は、日本独自のシステムで守っていく必要がある。それは地域での生活背景に微妙な違いがあり、特に介護は、この微妙なズレに配慮していかなくてはならない。金太郎飴のように、どこを切ってもまったく同じような、経済効率だけを考えた介護は絶対阻止せねばならない。
※週刊ポスト2014年11月14日号