11月1日、アメリカ・オレゴン州に住むブリタニー・メイナードさんは、医師から処方された薬を服用し29年という短い生涯に幕を下ろした。
今年1月、多形成膠芽腫(たけいせいこうがしゅ)という悪性の脳腫瘍と診断されたブリタニーさん。直後に腫瘍の切除手術を受けたが、4月になって再発が判明。同時に余命6か月という残酷すぎる宣告を受けた。
いくつもの病院を回り必死に治療法を探すも、彼女の容態は深刻で手の施しようがなく、その間も激しい頭痛とひきつけのような発作に見舞われる日々。これ以上苦しみが続くことと、脳の病気のために愛する夫や家族の顔も理解できなくなってしまうことを恐れた彼女は、インターネットを通じて、全世界に向けて安楽死することを宣言、それを実行に移したのだった。刑事訴訟法に詳しい元最高検察庁検事で、筑波大学名誉教授・土本武司氏はこう解説する。
「オランダやベルギーなど、世界には安楽死を認める法律をもつ国があります。また、米国内でも、オレゴン州やワシントン州など5つの州で安楽死に関する法律が定められています。オレゴン州の法律では、余命6か月未満で責任能力のある成人の末期患者が、医師に処方された薬を自己投与して自殺することを認めています。
従来の考えによれば、自殺を目的にする人に致死量の薬剤を与えた医師は“自殺のほう助”をしたとして処罰されますが、この法律はその医師を罪に問わないと規定しているんです」
現在日本では安楽死は認められていない。たとえ本人や家族が強く望んだとしても、そうした医師の行為は殺人や嘱託殺人などに当たるのだ。一方、日本国内では近年、安楽死とは異なる“尊厳死”が広まっている。
「人為的に薬物などを投与して死期を早める“安楽死”に対して、人工呼吸や胃ろうなどの延命措置を行わず、死を自然な経過に任せるというのが“尊厳死”。例えば末期のがんであれば、過剰な抗がん剤の投与で最期まで苦しむのではなく、緩和ケアを受けながら自然に死を迎えるというものです」(前出・土本氏)
こうした尊厳死は、“最初から”延命措置を行わない場合をいう。逆にいえば、ひとたび措置を開始した後、患者が中止を望んで医師が人工呼吸器を外した場合、医師は殺人罪に問われる可能性が出てくるのだ。
そこで今年3月、超党派議員による『尊厳死法制化を考える議員連盟』は、治る可能性のない末期の患者が延命措置を望まない場合、医師が措置を中止しても法的責任を問わない、という尊厳死法案の素案を作成した。
「しかし、“患者が本当に死を免れない状況にあるとどう判断するのか”などといった議論があり、国会提出は先送りされている状態です。尊厳死を望む宣言書の『リビング・ウィル』や、終末期医療という言葉の広まりとともに、漫然と長く生きるよりその質を重んじるという尊厳死の考えは一般にも浸透しました。ところが、尊厳死でさえ法整備に向けては多くの議論が噴出します。安楽死ともなれば、それが日本で現実になるのは、遠い未来のことでしょう」(前出・土本氏)
※女性セブン2014年11月20日号