香港の民主デモが長期化するなか、中国当局はすでに警察、車、情報機関から数百人の工作員などを香港に送り込んでいる。しかしそれでも香港警察が占拠学生らをすべて強制排除できない場合どうなるのか。ジャーナリストの相馬勝氏が解説する。
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人民日報系列の国際関係紙「環球時報」(電子版)は9月29日、「香港警察が力不足なら武警(武装警察)が混乱平定の支援可能だ」との王強・武警政治学院(大学)助教授の論文を掲載した。論文の主旨は次のようなものだ。
「香港が国家の統一や安全に危機を与えるような制御不能な緊急事態に陥った場合、香港の『1国家2制度』は北京の中央政府が付与した権利であるから、中国の法規を香港特別行政区に適用できる。武警も中央政府の命令に従って『武装警察法』を香港にも適用させ、騒乱を平定、社会秩序を回復させることは合理的かつ合法的だ」
しかし、王助教授の論文は掲載されてから数時間でネット上から削除されており、中国指導部内で、香港への武警投入などの武力行使について、慎重かつ否定的な意見が少なくないことを示している。とはいえ、天安門事件同様、香港で混乱が拡大し、警察による鎮圧の見通しが立たない場合、最終的には武装警察を導入しての鎮圧も辞さないことは想像に難くない。
共産党筋によると、習近平は9月30日、国慶節(建国記念日)のレセプションで行った演説の中で、香港について、「中央政府は1国2制度と基本法を断固守り抜く」と述べたが、香港の自治を示すもう一つの肝心な言葉には言及しなかった。
それは「香港人が香港を治める」という意味の「港人治港」という言葉だ。歴代の最高指導者は「1国2制度」と「港人治港」をペアで用いていたが、習近平政権移行後、他の指導者も港人治港には言及しておらず、極めて異例。「習近平が港人治港を意図的に無視しているとしか考えられない。つまり、習近平は『北京が香港を統治する』と考えているのだ」と同筋は指摘する。
したがって、香港が収拾不能の状態に陥れば、習近平は「動乱」を理由に、武警を導入する可能性は否定できない。すでに、中国当局は香港マフィアを背後で操り、多数の工作員を香港に入り込ませて、情報工作を行っている。さらに、中国内では今回の香港の騒ぎと同じようなデモや暴力的事件などは日常茶飯事であり、中国指導部が本気になれば、鎮圧することなど朝飯前だろう。
習近平は慎重にその時期を見極め、いざというときには、香港警察のなかに武警を紛れ込ませ、一気にデモ隊を強制排除するというシナリオが着々と進んでいるのだ。
※SAPIO2014年12月号