1980年に文藝賞を受賞、翌年1月に出版され大ベストセラーに。女子大生でモデルの由利を主人公に、彼女の好きな服やブランド、音楽などを通して消費社会をしなやかに享受する若者像を描いた『なんとなく、クリスタル』。当時社会現象となった。頻出するカタカナには詳細な註が付けられ、風俗カタログ小説との評もあったが、現在は1980年代のエポック文学とされている。
そんな“なんクリ”が『33年後のなんとなく、クリスタル』(河出書房新書)として11月末に33年ぶりに復活する。実に田中康夫氏の17年ぶりの作品となる。
33年前、“なんクリ”の註の最後に、日本の合計特殊出生率と高齢化率のデータが2ページにわたって記されていたことに注目した人は少なかった。
「出生率が低下し、高齢化が進行するデータを見て、大学生の僕は思ったんです。日本は、右肩上がりという言葉で捉えられる社会ではなくなるかもしれない、と」(田中さん)
そして今、当時の予測よりも急速に少子化や高齢化が進んでいる。真の豊かさとはなんなのか、考えざるを得ない時代だ。
「なのに今回の政府の骨太方針は、50年後も人口1億人維持を掲げ、移民を受け入れる議論まで始めている。でもイタリアやフランスの方が、ずっと豊かな人生でしょ。両国と同じ6千万人前後で持続可能な日本を目指す発想の転換が必要だと思いませんか。そもそも福祉、医療、介護、教育といった分野は、人が人のお世話をして初めて成り立つ新しい雇用の場なのですから。
時代は黄昏に見えるけれど、この光の加減は意外にも夜明け前かもしれない。『33年後のなんとなく、クリスタル』は、そんな曙の光を分かち合う物語なのです」(田中さん)
※女性セブン2014年11月20日号