最近の韓国では、中国に埋もれている慰安婦関連の記録に注目が集まっている。そのきっかけとなったのが、今年1月13日に中国東北部の吉林省档案館(とうあんかん)により公開された「日本内部報告書」だ。档案館は、中国全土の主要都市に設置された国家の公式記録を管理・保管する公文書館で、今回資料を公開した吉林省档案館もそのひとつである。
1938年に記録された日本軍の報告書は現在の中国領内に作られた慰安所の様子を綴ったもので、「韓国人慰安婦が39名、中国人慰安婦が109名いた」「中国人慰安婦の女性たちは1日平均26人もの日本軍人の相手をさせられていた」などと記されている。
さらに、吉林省档案館は3月20日に韓国の主要メディアを現地に招き、「慰安婦強制動員」を裏付けるとする資料を公開した。中国江蘇省に駐屯していた日本軍部隊が25万2000円の資金を慰安婦購入資金として使うことの可否を本国に問う書簡だ。
またこの書簡には、黒龍江省に設置されていた慰安所の様子がこう綴られている。
〈陸軍官舎の片隅にある慰安所は、小劇場のような造りになっていた。20人の慰安所兵力(慰安婦)はすべて朝鮮人であり、国家総動員法により束縛されていた〉
この書簡について韓国紙「ハンギョレ」は、「日本軍が軍用公金で直接慰安婦を購入しており、しかも慰安婦は国家総動員法により束縛されていた」と論評。その上で、「文書に兵力という言葉があるのを見ると、慰安婦が私的な事情で金稼ぎにやってきたのではなく、日本軍が指示した公的な行為を行なうために動員されたものであることがわかる」という専門家のコメントを掲載している。
档案館は昨年、「独島は韓国領」と明記した1947年の中国外交文書を公開。以来、韓国側に急接近した。まずは領土問題で韓国側の関心を引き、火急の問題とされる慰安婦問題の資料を立て続けに提供・公開して、中韓共同で畳み掛けるように日本を追い込もうという戦略だ。
中国の档案館はすでに、慰安婦白書作成で中核を担う韓国の「東北アジア歴史財団」と蜜月関係を作り上げている。韓国では慰安婦記録物を世界遺産に登録しようという動きが官民一体で始まっており、今年7月18日に開かれた政策討論会で高麗大学韓国史研究所の朴漢龍教授は「档案館との協力が必要」と明言。
さらにその発言を受け、東北アジア歴史財団の南相九研究員は、被害者の証言とともに被害事実を把握することの重要性を強調した。档案館に埋もれている慰安婦資料の検証は、韓国にとって極めて重要な意味をもつ。
文/藤原修平(韓国在住ジャーナリスト)
※SAPIO2014年12月号