老いた飼い主の死や健康問題によって、行き場がなくなってしまうペットが増えている。関東地方のある自治体が運営する動物愛護センター職員は深刻な表情でこう打ち明ける。
「近年の動物愛護の意識の高まりもあり、犬や猫の殺処分の総件数は年々減っています。しかし飼い主が先に亡くなったり、老人ホームに入って面倒を見られなくなったりしてこちらに送られてくるペットは後を絶ちません。
つい先日も、進行がんを患う80歳の女性が飼い犬を連れてやってきました。彼女は“15年一緒に暮らしてきたワンちゃんだけど、離れて住む子供たちは引き取ってくれない。この子を遺して死ぬわけにはいかない。せめて楽に死なせてあげてください”と涙ながらに訴えてきました。
本来であれば“もっと新しい飼い主を探す努力をしてください”と断わるべきところですが、その女性の事情を踏まえて引き受けました。犬はすべてを理解しているかのように、ずっと悲しげな表情を浮かべていましたね」
この犬はそれからまもなくして殺処分となった。このように、「飼い主に先立たれたペット」の処遇が社会問題になっている。
内閣府の調査によれば、60~69歳の36.4%、70歳以上の24.1%が犬や猫など何らかのペットを飼っているという。一方、65歳以上の単身高齢者の割合は増え続けている。高齢者人口に占める1人暮らしの割合は1980年には10.7%だったが、2010年には24.2%になった。
1人暮らしの老人たちにとって、ペットがかけがえのない「家族」である実態がうかがえる。
しかし必ずしも看取る側が人間であるとは限らない。今やペットとして飼われる犬の平均寿命は14歳2か月まで延びている。猫も13歳8か月となっている(いずれも2013年調査)。生活環境やペットフードの進化などにより、かつての2倍近く長生きするようになったのだ。
だからこそ、冒頭で紹介したような悲劇が次々と起こっている。四国地方の地方紙記者は、こんな事件に出会った。
「田舎のアパートで1人暮らしをしていた85歳女性の孤独死を取材しました。郵便受けからあふれる郵便物や、漂ってくる異臭に隣人が気づいて発見されたのですが、部屋の中では腐敗しかけた女性の遺体の傍にガリガリにやせ細ったペットの犬が横たわっていた。犬はなんとか一命を取り留めましたが、もし数日発見が遅れていたら手遅れだったそうです。飼い主の死後も、ずっと寄り添っていたんでしょう」
※週刊ポスト2014年11月21日号