戦後70年となる来年を控え、歴史認識問題で日本と対立してきた中韓両国の思惑は、中国側でも慰安婦に関する資料を積極的に発掘していくなど、この問題で共闘を目指すことで一致した。
だが、朝日新聞の誤報騒動は韓国にも少なからずダメージを与えている。9月16日付の「朝鮮日報」は、韓国政府当局者の話を引用する形で「慰安婦問題の本質は変わらず」と報じたが、トーンダウンの感は否めない。日本政府や軍による強制性を直接的に示す証拠に欠ける韓国政府は、中国に眠る数々の関連資料の公開を待ち望んでいるのだ。
そうした中、中国は今年に入り、「中国人慰安婦」の存在を喧伝し始めた。まず、中国の歴史研究家が今年2月に上海で開かれた学術会議で「中国人慰安婦30万人説」をぶち上げた。さらに今年6月には米・ヴァッサー大学の丘培培教授が上海師範大学の2名の教授との共著として『中国人慰安婦』を出版。慰安婦は全体で40万人に上り、その半数以上(つまり20万人以上)が中国人慰安婦だという。
これまでほとんど触れられなかった中国人慰安婦の存在がなぜ突如として、しかも20万人や30万人といった“中国らしい”巨大な数字として現れたのか。その根拠はいまのところ提示されていない。
韓国と中国が慰安婦問題で手を組むことで、慰安婦の強制動員を「裏付ける」資料が乱発されることは目に見えている。そして、信頼するに足りない多くの資料が来年末に韓国政府により公表される「慰安婦白書」に盛り込まれることになるだろう。
慰安婦問題について、前出・丘教授は中国メディアに「20世紀で人類最大の恥辱的な罪」と語った。そして韓国政府も、慰安婦問題を人権問題としてすり替える作業を着々と進めている。
韓国側は中国のバックアップを得て、強制動員を間接的に示す資料を可能な限り提示し、さらに人権問題という観点で世界の目を慰安婦問題に集中させることで、日本の譲歩を引き出そうというシナリオを描いている。「慰安婦白書」はそうした目論見の見取図となるであろう。
文/藤原修平(韓国在住ジャーナリスト)
※SAPIO2014年12月号