性交時において「あえぎ声」は重要な役割を持っているが、人間以外で快楽の声をあげるのは、アカホエザルというサルだけだという。
人間があえぎ声を出すようになったのには、何か理由があるはずである。それも、声を上げるのは圧倒的に女性の側だ。男性も射精時など、快感を得た際に声を出すことはあっても、女性のあえぎ声とはかなり異なる。動物行動学研究家の竹内久美子氏は、「ハッキリした研究資料がないのであくまで推論に過ぎない」としたうえで、興味深い分析をする。
「動物のなかで、人間だけが隠れて性行為を営むことが関係しているのではないかと考えます。どんな動物にも、メスの卵子の受精を巡って複数のオスの精子が争う『精子競争』という現象があります。
メスが複数のオスと同時期に交わり競争させると、より質のいいオスの精子が勝ち残って受精することになる。これはより強く優秀な個体を残したいというメスの戦略のうえで非常に重要なことです。
しかしながら白昼堂々、公然と交尾をする他の動物と違って、人間は隠れてセックスする。必然的に精子競争の機会が失われてしまいます。そのため本能的に、良い精子を求めようと声を発しているのではないか。
男性にあえぎ声を聞かせることで興奮させることはもちろんですが、他のオスと続けて性交し、精子競争を引き起こさせようとする動物的本能の名残りではないかと考えます」
また、竹内氏は「排卵期にはあえぎ声が大きくなる」という仮説も唱える。
「この時期にはあらゆる感覚が敏感になっていて、より声も出やすくなる。排卵期こそ精子競争をさせなければならない時期なので、よりよい精子、遺伝子を見つけるために声が大きくなるのではないでしょうか」(竹内氏)
※週刊ポスト2014年11月21日号