抗がん剤を、がん治療の救世主のように思われている人も多いだろう。抗がん剤は、人体の細胞を攻撃することでがん細胞を弱らせる薬物である。脱毛や吐き気などの副作用が出るのは、それががん細胞だけでなく、正常細胞も同じように攻撃してしまうからである。そこで近年は、がん細胞増殖に関わるタンパク質だけを狙い打ちする「分子標的薬」と呼ばれる抗がん剤が増えている。
ところが、先日『がんより怖いがん治療』(小学館刊)を上梓した元慶應大学病院のがん治療医、近藤誠氏によると、分子標的薬(がん細胞などの表面にあるたんぱく質や遺伝子をターゲットとして効率よく攻撃する薬)も含めた抗がん剤は、「急性白血病、悪性リンパ腫、小児腫瘍、睾丸腫瘍、子宮絨毛がんは抗がん剤で治る可能性があるが、それ以外のがんには無意味」というのだ。
つまり、胃がん、肺がん、食道がん,乳がんなどの固形がんには、まったくと言っていいほど効かないというのだ。なぜ効かないのか。有効性を確認する臨床試験を経て認可されているはずではないのだろうか。
近藤氏は、その臨床試験における新抗がん剤の「有効」基準そのものが低レベルすぎると言う。同書によると、抗がん剤が「有効」とされる指標は以下の3つ。
【1】がんの大きさが3分の2になる。
【2】その縮小が、1か月持続した。
【3】上記の1と2の該当者が全被験者の10パーセントから20パーセント。
つまり、医者の言う「抗がん剤が有効」というのは、患者の寿命が延びることではなく、がんが消えることでも、ましてや治ることでもない。たとえば100人の胃がん患者がいたとして、10人から20人のがん腫瘍の大きさが3分の2以下になり、それが1か月持続しただけということだ。たとえ被験者が2か月目に亡くなっても、他の8割方の患者に何の効果がみられなくても、その薬は有効のまま。ということは、大部分の患者にとって、効果は期待できないことになる。近藤氏は説明する。