「安く飲むなら居酒屋」という常識が変わりつつある。吉野家を居酒屋風に改装した「吉呑み」が快進撃を続けているのをはじめ、これまで食事をする場所だった外食チェーンが「ちょい飲み」に続々参戦している。
平日の夜7時、「餃子の王将 新橋駅前店」には10人近くのサラリーマンが列を作っていた。店に入るとビールとおかず1~2品を頼み、30分としないうちに席を立つ。こうした「ちょい飲み」がなぜブームなのか。経済アナリスト・森永卓郎氏が大繁盛の店内で分析した。
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餃子の王将の東日本の店舗では小皿サイズの「ジャストサイズメニュー」を打ち出しています。ほとんどが1品100~200円台で、生ビール1杯(496円=税込み、以下同)に加えて4~5品頼んでも1000円台に収まります。
1人か多くても2~3人でやってきて追加オーダーはせずに会計を済ませる。今、そうした「ちょい飲み」が広がる背景には、何よりもまず消費者を取り巻く厳しい経済状況があります。
株価高騰で好景気に見えますが、現実に起きているのは「実質賃金の激減」です。物価上昇によって事実上前年比3~4%も給料が減っている状況で、戦後最悪のレベルです。そうした中で真っ先に削られるのはお父さんの小遣い。タクシーでは帰れないから飲む時間は短くなり、駅の近くで1~2杯だけ飲むスタイルが広がっています。
興味深いのはそのニーズを居酒屋よりも、餃子の王将や吉野家などのチェーンが掴んでいることです。
外食チェーンはここ数年の壮絶な値下げ競争で疲弊し、「消耗戦の先に未来はない」と気付きました。これ以上の安売り競争は難しいが、高級路線に転換しようにも消費者はない袖は振れない。そこで、居酒屋に流れていた層に「うちならもっと安く美味しく飲める」とアピールし、成功しているのです。
餃子の王将や吉野家はもともと食事をする店だから、料理には自信を持っている。しかもチャージ料金を取らないから安くあがります。
長居するつくりにしていないので回転率は高い。回転率が高ければ売り上げが立つので、材料の質を落とさない、より安いつまみを提供する、といった試みが可能になり、消費者にはそれがまた嬉しい。そんなサイクルができています。
学生を連れてこうした外食チェーン店に飲みに行くことがあります。彼らは「そこそこの品質のものを安く食べられれば満足」という考え方です。
社会学者の古市憲寿さんが2011年に『絶望の国の幸福な若者たち』に書いたそのままの価値観で、哀れな印象は全くありません。このスタイルは今後もっと広がるでしょう。だからこそ、各チェーンはサービスに注力します。消費者がそれを楽しまない手はありません。
撮影■岩本朗
※週刊ポスト2014年11月28日号