大相撲九州場所は17年ぶりに初日から満員御礼が出るなど、連日盛り上がりを見せている。中心にいるのはもちろん新関脇・逸ノ城だ。いきなり横綱・日馬富士に敗れるなど前場所ほどの勢いはないが、人気は確固たるものとなりつつある。だがその逸ノ城がトラブルに巻き込まれる可能性が出ているという。角界関係者の間で、こんな情報が飛び交っているのだ。
「元横綱・朝青龍が、逸ノ城を応援に行きたいといっているらしい」
角界にはトラウマがある。遡ること3年前の九州場所。朝青龍は無断で支度部屋に侵入し、弟のように可愛がっていた日馬富士(当時大関)を激励した。元横綱とはいえ素行問題で角界を事実上解雇された部外者であり、放駒理事長(当時)が激怒して大問題となった。
朝青龍は今でも福岡にタニマチがおり、「来るなら九州場所の可能性が高い」(若手親方)といわれている。“問題児”は本当に現われるのか。相撲ジャーナリストはその可能性は高いとして、「朝青龍には目的があるから」と指摘する。
「逸ノ城の“勧誘”です。モンゴル人力士は、大きく朝青龍派と旭鷲山(元小結)派に分かれている。朝青龍派の現在の“番頭”は日馬富士で、旭鷲山派は白鵬。彼らはグループ内の仲間で食事に出るなど親密な関係にあり、連帯感が強いことで知られている。
だが逸ノ城は遊牧民族出身で、都市部のウランバートル出身が多い他のモンゴル人力士たちと距離があるほか、先場所で急に注目されたばかりということもあって、まだどちらにも属していない。そのため今場所、朝青龍が直々に“スカウト”にやってくるといわれているのです」
角界ほど派閥意識の強い世界はない。特に総勢26人いるモンゴル力士は外国人力士の最大派閥だ。その最有力若手が放っておかれるはずはないし、朝青龍側にもメリットがある。
「人気者の逸ノ城の“後見人”になれば、一度は失われた角界での影響力を発揮できる。また、逸ノ城をパーティに呼ぶなど自らのビジネスにも利用できる」(同前)
だが、逸ノ城の快進撃は、モンゴルグループに属していないからこそともいえる。先場所は横綱・鶴竜に立ち合いで変化を付ける注文相撲で金星を挙げた。先輩とも遠慮なく闘えるからこそ、今の好成績があるのだ。母国の“悪~い大先輩”に取り込まれて牙を抜かれれば、逸ノ城の魅力は失われる。「最強の敵」は意外なところにいる。
※週刊ポスト2014年11月28日号