中国担当記者はロシアの話を書けない。逆にロシア担当記者も中国の話は書けない。日本の外務省担当記者となると、日本はさておき、中国やロシアの事情は書けない。互いの縄張りを侵すのは「記者の掟破り」になるからだ。
その結果、日中会談といえば、せいぜい中国担当と日本の外務省担当が自分の縄張り部分を書いてホチキスで留めるくらいが関の山になる。第3国であるロシア担当が口をはさむ余地はない。
そもそも中国担当は外報部、外務省担当は政治部という違いもある。所属する部の縄張りに加えて担当の縄張りという二重のハードルがあるために、視野は日中両国に限られ、一歩も外に踏み出せなくなってしまうのである。
もう1つ。国内では衆院解散の流れになった。私は一貫して増税先送りとみて、前々号の本欄では解散総選挙の可能性を指摘した。ずばり的中した形である。
日中首脳会談も解散に追い風だ。外交の大きな成果なのだから、安倍首相がこれも好材料とみて一層、解散に傾くのは当然である。記者たちは日中会談と解散の関係を頭に入れて記事を書いていただろうか。私が見た限り、そういう解説もない。縦割り取材を続けていては、外交も政局も読めなくなるのだ。
(一部敬称略)
■文/長谷川幸洋(はせがわ・ゆきひろ):東京新聞・中日新聞論説副主幹。1953年生まれ。ジョンズ・ホプキンス大学大学院卒。規制改革会議委員。近著に『2020年 新聞は生き残れるか』(講談社)
※週刊ポスト2014年11月28日号