安倍晋三首相と中国の習近平国家主席が会談し、不測の事態を回避する連絡メカニズム作りなどで合意した。首脳会談が実現した背景には、日本の対中投資激減や米国の仲介があるといった、一見もっともらしい解説があふれている。だが、もっと大事な要素を忘れてはいないか。
それはロシアだ。日中首脳会談が開かれた前日の11月9日夜(現地時間)、安倍とプーチン大統領が北京で会談した。これに先立つ10月17日、両者はイタリアのミラノで会談し「11月にはアジア太平洋経済協力会議(APEC)が開かれる北京で再会しよう」と約束を交わしている。
習近平はこれに触発されたに違いない。中国とロシアはそこそこ友好関係を保っているが、一皮むけば、米国と世界への影響力を競うライバル同士である。
そんなロシアの大統領が自分の庭先で日本の首相と握手を交わすのを黙って見ていられただろうか。もしかしたら、日ロは結託して自分を追い込もうとするのではないか。そう考えるのが国際関係の常識だ。
10月3日号の本欄でも指摘したが、ロシアにとって中国は頭の痛い存在である。米ソが世界を仕切った時代には、毛沢東は大量殺戮を続ける弟分にすぎなかった。だが、いまや国内総生産(GDP)はロシアの4倍もある。
ロシアが輸出できるのはせいぜい天然ガスくらいだが、中国は模造品も含めて衣料品からコンピュータまである。大国にのし上がった中国にロシアが追いつくには、日本との協力が不可欠なのだ。
中国もそうと知っているから、日ロ関係の進展に無関心ではいられない。日ロの接近をけん制し、日中関係の決定的悪化を避けるためにも習は安倍と会わざるをえなかったと私はみる。追い込まれたのは中国なのだ。安倍と会った際の習のこわばった表情がそれを物語っている。
だとすると、日本のマスコミには、なぜ日中会談に関してロシア・ファクターの言及がないのか。それはまったく馬鹿げた理由だ。縦割りの取材体制である。