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【書評】がんの放置療法提唱者が語る日本の医療界抱える矛盾

【書評】『がんより怖いがん治療』/近藤誠著/小学館/本体1200円+税

近藤誠(こんどう・まこと):1948年東京都生まれ。慶應義塾大学医学部放射線科講師を2014年3月に定年退職。本書以外の近著に『近藤先生、「がんは放置」で本当にいいんですか?』(光文社新書)。2012年菊池寛賞受賞。

【評者】鈴木洋史(ノンフィクションライター)

 著者の「がんもどき理論」とそれに基づく「放置療法」はあまりに有名だ。がんにはそもそも「転移するがん」と「転移しないがん」があり、前者はいくら早期に発見しても、すでに転移は起きているので、根治することはできない。一方、「転移しないがん」はQOL(クオリティ・オブ・ライフ=人生の質)が下がる自覚症状がない限り、治療を施す必要はない。それゆえ、がんが発見されても放置しておくのが良い(一部の例外はある)。

 にもかかわらず、摘出手術を行ない、抗がん剤を投与し、放射線を当て、検診でがんを発見して病人に仕立て上げれば、合併症や後遺症で苦しめ、QOLを低下させるだけだ。しかも、その背景にあるのは、医師の出世欲、診療科間の縄張り争い、製薬会社と医療機関の経済的癒着などであり、患者不在がまかり通っている……。

 本書は著者の長年の主張をわかりやすくまとめたものだが、あらためて日本の医療界の抱える矛盾が浮かび上がる。著者は、四半世紀前、日本のがん治療の矛盾に気づき、大学病院内での出世を諦め、自説を世に問うてきた。そのため、雑誌に発表した論文を批判されて教授会から謝罪要求を突き付けられ、他科からの患者紹介が一切行なわれなくなり、陰に陽に肩叩きを受け、学会で野次を飛ばされる……といった仕打ちを受けてきた。

 著者は若かりし頃、抗がん剤や放射線治療によって何人もの患者を死なせてしまった、と自分を責める。〈ぼくを診療に、執筆に駆り立てるのは、そうした患者たちへの贖罪でもある〉。孤独な戦いを強いられながらも心折れなかった著者の姿には胸を打たれるが、同時に医療界の病巣の深さに背筋が寒くなる。

※SAPIO2014年12月号

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