日本のプロ野球だけでなく、海の向こう米MLBでも来季を見据えた移籍市場が動き出した。もちろん日本人選手たちも関心の的である。最注目株はGM会議中にヤンキースのキャッシュマンGMから事実上の「戦力外通告」を受けたイチローだ。
ヤ軍は今季途中にメッツからクリス・ヤング外野手を獲得、今オフに250万ドルで再契約を結んだ。ヤングは4番手の外野手として起用される予定で、イチローの居場所はなくなった。
「今季の成績は143試合に出場して打率.284。ヤ軍で2番目に高いが、四球の少ないタイプの打者だから3割を切ると厳しいですね」
こう分析するのは、野球データに詳しいライターの広尾晃氏だ。
「メジャーではWAR(※注)という指標が査定に使われます。今年のイチローは1.0。レギュラークラスには2.0~3.0が求められるのでかなり低い。2004年には9.1をマークし、全米1位になったこともある選手にしては寂しい数字です」
【※注】Wins Above Replacementの略で、その選手が、そのポジションの平均的なレベルの選手(Replacement)に比べてどれだけ勝利数を上積みする働きをしたかを表わす指標。複雑な計算式により、打撃、走塁、守備という性質の異なる要素をまとめて評価する。
最大のネックはやはり「年齢」だ。NY在住の日本人スポーツジャーナリストが語る。
「メジャーのスカウトは良い選手がいると、まず年齢を聞く。成績や実績やプレースタイルの調査は二の次です。41歳というだけで敬遠されている」
たとえイチローが天才とはいえ、年齢は如何ともしがたい。だが前出の広尾氏はこう語る。
「全盛期に比べれば衰えてはいますが、スピード面は健在。今季も15盗塁を決め、盗塁死は3回だけ。足は衰えていない」
確かにアメリカでは「イチローはまだやれる」という見方が少なくない。『NYポスト』の名物コラムニスト、ジョエル・シャーマン氏は、「今オフのFAの中では最も芸術的なプレーを見せる選手。40歳になっても衰えを見せない肩の強さとスピードは驚異的」と最大級の賛辞を贈る。
前述したWARでは興味深い結果が出ている。イチローの数字は、今季ロイヤルズの外野手としてワールドシリーズに出場し、移籍市場で大人気の青木宣親とまったく同じなのだ。指標上、イチローは青木と同等の活躍ができるということになる。
「青木はスタメン出場、イチローは途中出場という違いがあり、フル出場した場合にはイチローの数字のほうが多少悪くなるでしょう。しかしイチローはヤ軍での打順は下位ばかりで、自由に打たせてもらっていない。1、2番に固定して使えれば数字が好転する可能性もあります」(広尾氏)
※週刊ポスト2014年11月28日号