【書評】『ニッポン景観論』アレックス・カー/集英社新書/1296円
【評者】徳江順一郎(東洋大学准教授)
本作で思わずハッとさせられたのは、「世界各国の名所旧跡に日本的な管理が施されたらどうなるか」という特集である。フィレンツェのダビデ像を取り巻く多数の看板、バチカンのサン・ピエトロ広場を埋め尽くす観光バス、ヴェネツィアの運河を埋め立てて作られた道路、パリのノートルダム大聖堂に掲げられた多数の看板や入り口に置かれた自動販売機…いずれもわが国の名所旧跡で当たり前のように見られる景観である。
しかしながら、他国の観光地においては、きわめて違和感を持たざるをえない。逆にいえば、せっかくの観光資源に対して、日本人はそんな扱いをしているという現状をまざまざと見せつけられる。
2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催に向け、海外からの来訪者はどんどん増えていくことが予想される。その人々が「美しい国」を期待して来日したとして、電線が張り巡らされた古い町並みやコンクリートで固められた海岸線を見て、どのような思いを抱くだろうか。本書はそうした反省をわれわれに迫ってくる。
一方で著者は、「自然を大切にせよ」とだけ述べているわけでもない。著者は、これからの公共事業には「国土の大掃除」が重要になると説く。つまり、無駄に作ってしまった道路やダムや護岸を、自然の脅威からきちんと守る方向性を確保しつつ、撤去したり、電線の地下埋設を進めていったりするような公共事業を目指すことを提案している。 われわれは、景観という新しい視点からも社会を眺めるべきなのかもしれない。
※女性セブン2014年12月4日号