中国の習近平・国家主席が10月の中国共産党の政治局員の勉強会で、中国の歴史からみる国家統治のあり方について講演した際に、古典から引用した10の故事成句が話題になっている。現代中国は一党独裁体制なのに、習氏が引用した故事成句は、一党独裁を否定し、西側の民主主義を肯定するものも少なくない。このため、北京の一部知識人の間では「習近平は“隠れ民主派”なのでは?」との声が上がっている。
習氏が講義で提示した10の故事成句は以下の通り。
「民惟邦本」「政得其民」「礼法合治」「德主刑輔」「為政之要莫先于得人」「治国先治吏」「為政以德」「正己修身」「居安思危」「改易更化」。
「民惟邦本」の意味は「庶民は国家の根本である」というもので、プロレタリアート(労働者)を中核に据えた共産主義には受け入れられない考え方。中国では共産革命のあと、富裕層やインテリは迫害されており、貧しい労働者や貧農がもてはやされた。また、そういった人々が共産党員になり、革命を推進し、新たな国家建設に活躍し、結果的に厚遇されている。
「政得其民」は「国家を治める要は人民の理解が必要」ということで、党員による民主集中制を基本とする共産主義思想とは相容れない。
「礼法合治」は「礼と法治によって国を治める」との意味だけに、共産主義思想によって国を治める共産党一党独裁とはそぐわないのは一目瞭然。
「德主刑輔」は「人徳を主として、刑法は二の次とする」ことで、やはり徳という考え方が共産主義思想とは合わない。「為政以德」も「徳をもって政治を為す」との意味で、「德主刑輔」と同じ。
「正己修身」は「自分の身を修めることが政治には重要」という意味だが、現在の共産党員は腐敗に染まっており、まさに理想像であり、虚像ともいえなくもない。
最後の「改易更化」は「改革によって、新たに政治を進める」という意味で、政治体制改革を拒否する中国共産党には受け入れがたいもの。ある知識人は「これを実践していれば、いまごろ中国は民主主義国の仲間入りしているはずだ」と指摘する。また、別の知識人は次のように指摘している。
「習近平の政治のモデルは保守的で、権力欲が強い毛沢東主席だ。毛主席はマルクス、エンゲルスの著作よりも、中国の古典を愛しており、彼の演説や重要講話では、よく中国の古典から故事成句を引用している。
例えば、習近平がさきのアジア太平洋経済協力会議の議長演説で引用した『愚公移山(愚公、山を移す)』も毛沢東が好んで使った故事成句だ。何代にもかけて、山を削れば、必ず山を崩すことができるという意味で、習近平の故事成句好きは、毛沢東の真似をしているだけだ。あるいは、これらの故事を引用して、民主化を成し遂げようということを仄めかしているのかもしれない」