過去、中国では数多の反日映画が作られ、日本の“不正義”を刷り込んできた。来年はいかなる映画が企図されているのか。
80年近く前に北京市内の昌平地区で発生した日中両軍の南口戦役を描いた『南口一九三七』。一般的には馴染みが薄い、この戦いを後世に伝えるために制作されたのが本作だ。
あらすじの詳細は省くが、日本軍の残虐さとそれに起ち上がった人民、そして中国軍を指揮した英雄的軍人の壮挙が描かれているという。
制作には、中国共産党とも関係の深い中国電影家協会(注:電影=映画)のスタッフが過去2年以上にわたって、昌平地区の戦争経験者や遺族を訪ね歩き、取材メモは5万文字以上にのぼったとされる。随分と入念な準備に思える。
かつて中国で粗製乱造された抗日映画といえば中国武術の達人が、軍帽を被った“チョビ髭”軍人を次々と素手でなぎ倒していくといったエンタメ映画が主だった。しかし昨今、抗日の歴史を安易な娯楽として描くことを避ける風潮が生まれ、荒唐無稽な物語が減ってきている。
中国で俳優活動を続け、数々の“悪役日本軍人”を演じてきた三浦研一氏は言う。
「最近の抗日映画は、題材やストーリーが重視されるようになってきた。数年前まではシナリオライターの給料は安かったけど、いまは監督に近い金額をもらっている」
2014年8月14日、中国共産党の青年組織が発行する中国青年報には、抗日映画の「行き過ぎ」を諫める記事まで掲載された。要旨は、<我々が日本に歴史を忘れるなというならば、我々も歴史を軽視するような映画を作ってはいけない>といったものである。
ちなみに三浦氏は、最近の傾向についてこうも話す。
「戦争映画に、韓国の撮影チームが加わることが増えてきた。CGの使い方に長けていて、徴兵制もあることから軍隊の描写が非常にリアルなんです」
中国が終戦70年の節目に連帯するのは、韓国だけではない。
今年2月、習近平国家主席はロシアのソチを訪れ、プーチン大統領と会談。そして2015年に、「反ファシスト勝利および中国の抗日勝利70周年記念行事」を共同で開催することを発表している。
次に紹介する『黒土地上的最後一戦』は、来年の中露の記念行事にあわせて公開が予定される映画だ。
舞台は東北部の黒竜江省である。終戦後の1945年9月、この地の山村に残された日本軍は頑なに投降を拒んでいた。現地の村民は彼らに虐殺される。そんな窮地を救ったのが、現地の抗日義勇軍とソ連軍だった。
映画では国を超えて手を携えた両軍が日本軍を征伐する様が描かれる。撮影にはロシア人監督も参加するという。
※SAPIO2014年12月号