食物は口から食道を通り、胃に運ばれる。食道の内側は粘膜から粘液が出て、食物をスムーズに胃に送り込む働きをする。食道と胃の境界は窄(つぼ)まり、胃内の食物や胃酸の逆流を防ぐ構造になっている。
食道と胃では組織の構造がまったく違う。胃は強い酸に耐えられるが、食道は耐えられない。さらに境界部の組織も、ここだけで分泌される粘液分泌腺があるなど、食道でも胃でもない領域となっている。近年、ここに発生するがんが増加傾向にある。東京大学医学部附属病院胃・食道外科の瀬戸泰之教授に話を聞いた。
「食道と胃の境界に発生するがんは、日本では食道がんか胃がんのどちらかに分類されていました。このため正確な患者数はわかりませんが、ここ10年間で倍増している印象があります。名称も境界部がんなど、ばらばらでしたが、境界の上下2センチ以内に発生したがんは『食道・胃接合部(せつごうぶ)がん』と称するということが定着しつつあります」
ばらばらなのは名称だけでなく、手術の範囲も異なっていた。同じような場所にできた食道・胃接合部がんでも、食道がんと診断されると食道だけでなく、胸部のリンパ節も切除され、胃がんと診断されると胃全摘になる、という具合に医師の専門領域によって治療がなされていた。
そこで日本食道学会と日本胃癌学会が共同で、273施設で過去10年間に手術を受けた3177症例を対象に分析を行なった。その結果、食道と胃の境界上下2センチの場所に発生した直径4センチ以下のがんの多くは、胃全摘の必要がないことが判明した。
そして2014年8月、胃の下部のリンパ節は取らず、胃を半分程度残せるとガイドラインに暫定的に明記された。食道については、どの程度切除すべきか研究が始まっている。その結果を待って、食道の切除範囲の治療指針が決まる予定だ。
■取材・構成/岩城レイ子
※週刊ポスト2014年12 月5日号