「オヤジに“高校を辞めたい”と言ったら、“いいよ”と即答するんですよ。そんな親、いないでしょう? でも、オヤジはぼくが小さい頃から、いつもそんな調子だったんです」
そう話すのは、宝槻泰伸さん(33才)だ。宝槻さんは、高校中退後、大検を取得し京都大学に進学し、現在は学習塾「探究学舎」の塾長をしている。3人兄弟の長男だが、なんと弟2人も中学を卒業してニート、その後、オヤジの家庭教育で同じく京大に進学したという。ちなみに、京大を選んだ理由は近所だったことと、「“京大3兄弟”はネタ的に面白い」とオヤジが思ったのが主な理由だという。
『強烈なオヤジが高校も塾も通わせずに3人の息子を京都大学に放り込んだ話』 (著/宝槻泰伸、徳間書店)という本も発売され、大いに話題になっているこの家族。オヤジが実践した家庭教育実験台の第1号である宝槻さんが、オヤジから受けた教育とそのノウハウ、家庭で親と一緒に学ぶことの大切さについて語る。
その教育方法だが、オヤジは3兄弟を連れて書店へ。長時間をかけて歴史の漫画などを購入。読むのを嫌がる3人にオヤジは「1ページにつき1円の小遣いをやる」と宣言。こうすることで、3兄弟はこぞって読むのである。
「お金で子供を釣るなんて、ひどい大人ですが、ちょっと読み始めると面白くなって、最終的には、お金がもらえなくても読んでましたね」(宝槻さん、「」内同)
小学校に入ったばかりの息子たちの地頭を鍛えるために、まずオヤジが取り組んだのが優秀な家庭教師であるマンガを買い込むことだった。そしてそれが成功すると、映画『椿三十郎』や『レインマン』など、子供でも感動できるビデオを借りてくる。ビデオも本もオヤジの趣味で借りてきたわけではなく、そこにはちゃんとした秘策があった。
「カジノシーンがある『レインマン』で、ブラックジャックやポーカーにハマりました。その流れで将棋、囲碁、麻雀にも。おかげで数学の確率はゲームのように楽しく修得できたんです」
そう! ギャンブルは数学やプログラミングなど論理的思考力を鍛えるにはうってつけのトレーニングだったのだ。
「それからオヤジが熱心に取り入れたのは歴史ものでしたね。まずは“NHKの大河ドラマ『武田信玄』を見ろ!”と。カリスマ性のある信玄に兄弟みな大興奮。またしてもオヤジはしてやったりです。人間ドラマを通して、歴史を学ぶ面白さを教えようとしていたんです。オヤジはいつも兄弟が何に興味を持つようになるのかを見極めていました」
本やマンガ、映画などを面白がり、どんどん夢中になっていく3兄弟に、オヤジがいつも課したのが自分の言葉で説明させることだった。
「お風呂の中で算数について話し合ったり、ドライブ中に歴史クイズで競わせたり、本や映画の内容を説明させられるんです。インプットしたものはアウトプットする時にこそ、よく整理されるので記憶に残るんです。書くこともアウトプットですが、子供にとっては口で説明させるのが最適。振り返れば、ぼくも日常のさまざまな場面で説明していたような気がします。鍛えられていたんですね」
宝槻さんはオヤジの家庭教育で、探究心(物事への関心を深める気持ち)、集中力、記憶力、基礎教養が鍛えられたという。
「夢中になって取り組むので集中力がつき、アウトプットすることで記憶力がアップする。そして結果的に知識や基礎教養が身につく。自分のオヤジながらよく考えられたプログラムでした」
【プロフィール】
宝槻泰伸さん(ほうつき・やすのぶ):1981年生まれ。京都大学卒。2年前に東京・三鷹に探究学舎を開校。代々木校の他、家庭通信講座「tan@gamily」も始める。
※女性セブン2014年12月11日号