子どもの教科書をめくると、驚かされることが多い。源頼朝の顔が違っていて驚くと、他にも違うところがたくさん。実はここ数年の間に、教科書の中の常識はガラッと変わっている。そのため、テストや受験のために必死に覚えた年号や史実を語呂合わせにも、「間違った常識」になってしまったものがある。
〈いい国(1192)作ろう鎌倉幕府〉は有名な語呂合わせのひとつだったが、現在の小中学校の教科書では使われていない。
「弊社では鎌倉幕府が開かれたのは1185年としています。源頼朝は、征夷大将軍になった1192年より以前の1185年に守護・地頭を置き権力基盤を築いていました。よって実質的な開幕として1185年としているのです」(教科書出版社・東京書籍の社会編集部の編集者)
最近では「いい箱(1185)作ろう鎌倉幕府」が新定番だ。また「一番の」「最初の」と冠した有名な事柄も認識を改めなくてはならなくなった。
一番大きい天皇の陵墓として教科書に必ず出てきた、世界最大の墓域面積を誇る前方後円墳〈仁徳(にんとく)天皇陵〉は、現在は「大仙(だいせん)古墳(仁徳陵古墳)」と呼び名が変わった。
もともと仁徳天皇の陵墓だとしていたものだったが、現在表記で付記されている(仁徳陵古墳)は「仁徳天皇の陵墓とも考えられている古墳」の意味に留まっている。それは仁徳天皇の没年と古墳の成立時期が矛盾するとの説が有力だからだ。
日本で最初の貨幣〈和同開珎(かいちん)〉は、7世紀の天武天皇時代の「富本銭(ふほんせん)」にその座を明け渡した。1999年に奈良・飛鳥京跡で大量に発見された富本銭の方が年代的に古いと発表されたのが理由だ。
それだけではない、歴史上の人物の“名前”までもが変わってしまっている。
アメリカ大統領・リンカーンは〈リンカン〉と表記されるようになった。これは現地読み(ネイティブな発音)に則した表記でイントネーションも大きく変わった。教科書出版の世界では近年、社会の国際化にともない表記を現地読みに近づけていこうという流れがある。
「高校の教科書ではすでに、アメリカのルーズベルト大統領は〈ローズベルト〉、フランシスコ・ザビエルは〈シャビエル〉という当時のスペイン語読みが、さらに初の世界一周を成し遂げたポルトガルのマゼランは〈マガリャンイス〉という読みが併記されています。これらは小中学校の教科書ではまだ導入されていませんが、機を見てやがては導入されるかもしれません」(同前)
※SAPIO2014年12月号