東京・新宿にあるネットカフェチェーン「CYBER@CAFE新宿歌舞伎町店」。すべて1.5畳の個室型となっており、フリードリンクやシャワーも完備されているため寝泊まりする利用者は少なくない。全64部屋あるうちのひと部屋に“住んでいる”のは、ユキコさん(仮名・40才)。スレンダーで、しっかりとメイクした姿はとても40才には見えない。
ユキコさんは山口県出身で、高校卒業後、19才で産んだひとり息子がいる。息子の父とは結婚しなかった。認知もしてもらっていない。
「お互いに若かったし、子供は自分で育てるからいいと彼に言い、シングルマザーになりました。実家には親もいたし妹や友人も子供をかわいがってくれたので、あの頃は幸せでしたね」(ユキコさん、以下「」内同)
子供が2才になった時、故郷には仕事がなかったため、大阪に息子を連れて働きに出た。最初は居酒屋などの飲食店で働いていたが、知人の紹介で風俗店に勤務するようになる。当時の収入は、月に100万円以上にもなっていた。娘に収入があると知った両親は次第にお金を無心するようになったという。
そして、3年前に母親が亡くなると、家族の絆は途切れ、父親や妹との連絡も途絶えた。息子とは連絡をとり続けているものの離ればなれの生活で過食症と拒食症を繰り返し、不眠症になった。うつ状態で働けなくなり、住んでいた寮から荷物も持たずに飛び出した。
夏場は路上で夜を明かし、風俗嬢時代の常連客とホテルで過ごしたこともある。個室DVDの店やビジネスホテルに滞在したこともあったが、1日6000円以上もかかるため、安価なネットカフェに移った。
「今いるところはたまたま見つけて入った。かつてのお客さんのなかには心配してお小遣いをくれる人がいる。風俗に戻れと勧めてくる人もいましたが、年も年だしいつまでも風俗をやっていられない。でもほかに何もできることはない。どうやって生きていけばいいかずっと悩んでいました」
ユキコさんの“城”は絨毯が敷かれた1.5畳のスペースにパソコンとソファがあるだけ。鍵はかからない。30日以上滞在する場合、前金で一括で支払うと1日1997円になるが、通常料金の2472円を払って毎日更新している。シャワーや洗濯機は1回309円で使用できるほか、屋外に洗濯物を干すスペースがあり郵便物の受け取りも有料でしてくれる。
「今手元にある服は夏物4着と冬物4着だけ。寮を出てから買いました。シャワーはあるけれどあまり使っていません。結構寒いんです。いまだに会ってくれるデリヘル時代のお客さんにスパのお風呂に連れて行ってもらったりします。食事はネットカフェにある206円のカップ焼きそばや、外に出たついでにドン・キホーテで焼き芋を買って食べることもあります。あまり食事をしないほうなので、丸1日何も食べないこともあります」
以前はふかふかの布団にくるまって寝るのが大好きだったが、ここでは店から借りられるブランケットとクッションを敷いて寝る。
「床に横になって寝るのですが、部屋が狭いので寝返りはうてないし最初は体が痛かった。でももう慣れました」
隣室の人から壁をどんどん叩かれて怯え、他人のいびきが大きくて眠れないこともあったという。
「部屋にいる時は息を殺してじっとしているんです。隣の人がぶつぶつ聞こえるように文句を言ってくることがあって怖くて泣きました」
風俗店で働いていた時に病院で処方された睡眠導入剤や精神安定剤はなくなり、保険証は盗まれたため病院に行くこともできない。体調は悪化していった。
「これではいけない、もう生活保護を受けたいと1週間前に区役所に相談に行きました。これまでは息子のために働きたいと思って頑張ろうとしていたけれど、これからはちゃんと健康を取り戻し生活を立て直して、両親や子供のためではない自分の新しい人生をやり直したいんです」
※女性セブン2014年12月4日号