大学病院と総合病院で外科医として長年、がん患者の治療を続けてきた小林秀規さん。「1つの家族に1人の医者が居れば重宝するだろう」と、8年前に『荏原内科・外科クリニック』を開院した。基本は手術を行わず診療のみ。内科外科に限らず多様な症状に対応し、必要があれば病院や専門医を紹介するホームドクターの先駆けだ。
「頭痛で通院していた患者さんから歯の痛みを訴えられたことも。深夜でしたから応急処置として歯の痛み止めに頭痛の薬をのむよう伝えました。冷静に考えれば、歯の痛みで内科や外科の医師に電話しませんよね? でも、それができるのが“ホームドクター”。眼が痛い、腰が痛い、更年期でつらいなど、私の専門外の症状で来院なさるかたも多い。もちろん治療できない場合もありますが、診察はできます」(小林さん・以下「」内同)
患者の症状から初診を受けるべき適正な病院を選んだり、執刀医を紹介するのもホームドクターの役目だ。
「手術するにしても病院ごとに得意分野がありますから、それを把握した上で、患者さんに『この病気ならA病院のB先生がベスト』とすすめます。治療法によって決めることもあります」
また、同等の技術レベルなら、患者の気質に合わせた医師を選ぶようにしているという。熱くなりがちな患者には穏やかなタイプを、悩みすぎて先に進まない人には一喝してくれる先生を。治療をスムーズに行うには患者と医師の相性も大事なのだ。
診日でも真夜中でも電話が入れば対応し、在宅訪問診療も開院以来続けている。
「体調や環境の変化で通院が不可能になった人の検査や治療、胃を手術して食べられない人には定期的な点滴…。認知症や末期がんまで、在宅診療を希望する人は大勢います。他の医師や看護師の応援をあおぎながら、患者さんの意思に沿った治療を最優先させています。
診察の根幹にあるのは、『自分の身内だったらどうするか』ということ。たとえば高齢の方のがん治療。患者の家族から『手術をせずに穏やかに残りの人生を送らせたい』と言われたら、自分の母親だったら、体への負担が大きい手術と抗がん治療を強いるだろうか…と考える姿勢ですね」
納得のいく治療が受けられるためにも、患者さんにはどんな希望でも話すようにお願いしているという。
※女性セブン2014年12月11日号