大相撲九州場所は、横綱・白鵬が尊敬する大鵬と並ぶ史上最多32回目の優勝を飾った。その優勝インタビューで語った「天皇陛下に感謝したい」という言葉に驚いた人は多いだろう。新聞各紙はこれを美談として伝えたが、一方で違和感もある。
なぜ白鵬は、唐突に“日本人アピール”をしたのか。実はそこには白鵬の将来への強い決意が隠されていた。古くからの角界関係者はこう証言した。
「白鵬はモンゴル国籍のまま親方になることを目指している。近しい人間を通して、帰化せずに親方になれるよう角界の重鎮に相談している。白鵬には一代年寄を襲名して『白鵬部屋』を創設したいという希望があるが、それをあくまでモンゴル人として実現したいと考えているようだ」
力士が引退後、角界に残って親方として後進の指導にあたるためには「年寄名跡」を取得する必要がある。
白鵬は、成績上は年寄名跡の中でも特別な「一代年寄」を名乗る権利を持つ。現役時代の功績が著しかった横綱が一代に限って認められ、四股名をそのまま名乗れるもので、横綱での優勝20回以上という目安があるが、白鵬の32回はそれを大きく上回っている。
しかし白鵬には相撲の強さだけでは如何ともしがたいもうひとつのハードルがある。日本相撲協会の規定では、年寄名跡は日本国籍を有する者しか取得資格がない。現行制度で親方になるには、白鵬は日本に帰化しなくてはならないのだ。
日本相撲協会の北の湖理事長が特例を認める気配はない。今夏の記者会見で記者から「白鵬が歴代1位の優勝回数となったら、年寄名跡の取得条件を変える考えはあるか」と質問され、こう断言していた。
「年寄の資格は日本国籍を有する者。日本の伝統文化である以上、(規定を)変えることはありません」
前出の関係者は、「だから今回のようなスピーチをしたのだろう」と見る。
「白鵬がいくら協会側に働きかけても、いつも答えはNO。だから天皇陛下の名前を出すアピールをして、“白鵬は特例でも一代年寄にしてはどうか”と協会の外から声が出ることを期待しているのだろう。あの“日本人アピール”は、逆に自分がモンゴル人であり続けることにこだわりを持っている証拠だ」
※週刊ポスト2014年12月12日号