安倍晋三政権が6月に発表した新成長戦略の目玉のひとつが「農協(全国農業協同組合中央会)改革」だ。規制改革会議で、安倍氏は「改革が看板の書き換えに終わることは決してない」と宣言、自民党にとってタブーだった農協改革に乗り出すヒーローを気取った。
そもそも本当の動機からして不純だった。民主党政権時、小沢一郎氏の切り崩しによって農協が民主党支持へと回ったことへの意趣返しなのだ。自民党国対関係者の話。
「民主党が掲げた農家への戸別所得補償制度で農協票の大半が民主に流れたのが2009年選挙の敗因のひとつ。農協に対する怨嗟を忘れていない自民議員は多い」
だから農協を叩くフリをしていたわけだが、選挙が近づくと、票欲しさに態度を一変させた。公約では農協改革を大幅にトーンダウンさせ、農協票獲得を狙った「実弾」の準備に取りかかったのである。
たとえば、ビニールハウス向けの燃油価格対策だ。施設園芸農家に対し、燃油価格が国の定める基準値を超えれば補填金を交付したり、今年度末に終了する予定だったヒートポンプなど省エネ設備の導入を支援する制度を継続したりする“ニンジン”をぶら下げた。
農水省の担当者は集票効果を隠そうともしない。
「ヒートポンプを導入すると農家の燃料コストは6割削減される。施設園芸農家の経営費に占める燃料費の割合は3割に上るので、同対策は農協・農家からの評判がとてもいい」(農水省生産局農業環境対策課)
さらに、米価の下落対策も準備されている。
「26年産米について、不安を抱いている現場の声に耳を傾けつつ、実質無利子の資金融通など、当面の資金繰り対策を行ないます」
11月14日、西川公也農水相は米価対策の一環として、生産者向けの貸付制度を実質無利子にする政策を発表した。さらに自民党は「収入保険制度」という別のアメも用意。農作物の価格下落で収入が減少した農家に対する補填制度だ。前出の燃油価格対策と併せて、農協票を抱き込む切り札である。
大臣がうちわやネギやワインをバラ撒いて批判されたことなどとっくに忘れたのだろう。政治資金スキャンダルまみれの政権らしいといえばそれまでだが、これで買われるようでは有権者も未来永劫、自民党にナメられ続けることになる。
※週刊ポスト2014年12月12日号