高倉健さん、菅原文太さんという2人の名優が亡くなったことで、やくざ映画に脚光が集まっている。男たちが愛した「やくざ映画」の熱き魅力とは何か──。ヤクザ雑誌の編集長を務めた後、フリーのジャーナリストになった鈴木智彦氏が選んだ、やくざ映画BEST5は、以下のとおり。
■『シャブ極道』(1996年/大映)
■『仁義なき戦い 頂上作戦』(1974年/東映)
■『博徒七人』(1966年/東映)
■『博奕打ち いのち札』(1971年/東映)
■『昭和残侠伝』(1965年/東映)
その中で、『シャブ極道』は、覚醒剤描写の多さから成人指定されたことで注目を集めたやくざ映画だ。鈴木氏が語る。
「これほど等身大のやくざを描いた映画はない。よく国盗り合戦だとか組織トップへの道が描かれるけれど、普通のやくざはそんな大それたことは考えず、好きなことしかやらない。
役所広司演じるシャブ大好きの主人公が、冒頭から女の裸の横でスイカに覚醒剤をかけて美味そうに食ったり、『ゴマだれはあかんぞ』なんていいながらシャブかけてしゃぶしゃぶを食らう。後半は思い込みが酷く、ヤク中扱いされて周囲に煙たがられるのもご愛敬。“所詮やくざ”感が漂っているのがいい」
また、『仁義なき戦い 頂上作戦』はシリーズ4作目。西日本を二分する2大組織の抗争で、その最前線で山守組と打本会が激突する。鈴木氏がその魅力を解説する。
「抗争にケツを捲る打本(加藤武)、浪費を重ねて遊びほうける山守(金子信雄)という、相対する親分ふたりが最高にだらしない。でも実は現実でも大方のやくざはみんな親分に困っている。強い人は早々に殺されるし、聡明な人はさっさと辞めていくのがやくざ社会。
そんなやくざの現実的な苦悩が描かれている。小林旭演じる武田が『広島極道はイモかもしれんが旅の風下に立ったことはいっぺんもないんで』と啖呵を切るシーンが見物」
■すずき・ともひこ/1966年、北海道生まれ。ヤクザ雑誌の編集長を務めた後、フリーライターに転身。アウトロー取材を中心に活躍している。著書に『潜入ルポ ヤクザの修羅場』(文藝春秋)など。
※週刊ポスト2014年12月12日号